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ノルマは21000
その週の土曜日、私は検診を受けた病院の栄養指導室へと足を運んでいた。担当はこの間と同じく、平川さんだ。平川さんは私の前でリーフレットを開いた。
「えっ!?」
私は思わず声を上げた。
「事実なんですか?この……7000という数字は」
「はい。腹囲を1センチ縮めることは体重に直すとおよそ1kgの減量と同じことになります」
「で、体重1kg落とすには7000kcal減らさないといけない、と……」
「そういうことですね。あくまで目安ですが」
平川さんはさらりとそう告げてきた。私はめまいを覚えた。メタボリックシンドロームの基準は腹囲90cm。下回るには最低でも腹囲を13cm縮めないといけない。となると減らさないといけないカロリーは10万kcal近くにのぼる。利根川の水を飲み干せと言われているかのような途方もない数字だ。
「ですが、いきなり明日から基準値の腹囲90cmを目指せなどとは言いません。3ヶ月で3cmから5センチ。できれば3cmを目標にすることを薦めています。むしろ急激な減量はリバウンドの危険も高く、逆効果になることもあります」
意外な言葉が続いた。しかし私の中では平川さんの言葉は半信半疑、いや、三信七疑ぐらいにしか感じられない。
「でも3cmの腹囲って言ったら、平川さんの話だと21000kcal減らすってことでしょう?至難の業じゃないですか?」
私の問いに対し、平川さんは首を横に振った。
「私のもとでは10人に7人の人が成功しています。とりあえずまずは東さんの生活状況についてお話を伺っていいですかね?」
私は平川さんに言われるままに現在の1日の流れについて話をした。朝食を摂った後3分歩いた駅から電車に乗り、30分ほど揺られた後に会社へと辿り着く。お昼ご飯はさくらの作ってくれたお弁当を食べてはいるのだが、それだけではお腹がいっぱいにならずコンビニの和風ツナマヨネーズのおにぎりと缶コーヒーを摂っていることも正直に打ち明けた。夕食はさくらの手料理と500mLの缶ビールを2本。運動はほとんどしていないことも告げた。
「なるほど……思った通り東さんは本当に運のいい方ですね」
平川さんは再び運がいいという言葉を使った。
「こんなに改善の余地があるんですもの。21000kcalぐらいだったら何とかなりますよ」
平川さんは涼しげな顔でそう語る。この余裕はプロとしての経験則があるからだろうか?それとも、他人事だからだろうか?
「21000kcal削ると言っても、別に1日で削らないといけないわけではありません。3ヵ月、言ってしまえば90日あるんです。ということは、21000を90で割った233kcalを削ればいいわけです。余裕をもって見積もっても、300kcalを日々削ると考えればお釣りが来ます。で、1日当たりの目標値である300をさらに各シーンで細分化する。そうすれば、減量への具体的なプランが立つと思いませんか?ほら、300kcalといえばMサイズのフライドポテトよりも少ないぐらいですし」
「なるほど、確かに現実味のある数字ですね。でも、具体的にはどうすれば?」
「とりあえず、私からは3つ、提案があります」
平川さんはそう言うとA4の紙を目の前に置き、①、②、③と箇条書きの項目を書き出した。
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