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双つ子は存在を許されない。なぜなら子どもの一方は、悪しきものたちの落とし児だから。
それなのに、一葉と乙葉は双つ子として生まれてしまった。本来はどちらかが間引かれるべき存在。乙葉は生まれてすぐ、殺されるところだった。
なぜ今もなお乙葉が生きているのかと言えば、祖母が助けてくれたからだ。祖母は孫への愛着が強かったらしい。その祖母が死んでしまうと、乙葉に味方する者はいなくなったのだが。
幸いだったのは、言葉を話さぬ赤子を間引くことはできても、ここまで成長してしまった乙葉を間引くことは、さすがの大人たちにも抵抗があったことだろう。
双つ子の片割れである一葉は親からの愛情を受け贅沢に生きているのに比べ、乙葉はその侍女として慎ましやかに暮らすことを余儀なくされているが、ここまで殺されずに済んだ。
「双つ子は 悪しきものたちの落とした児
間引きましょ
間引きましょ」
一葉はよくその歌を口ずさむ。にっこりと。
ある日、乙葉が一葉の黒髪を梳っていると、彼女が突然振り返った。乙葉の襟を捕まえて、
「乙葉。あんた間引かれないだけ、感謝しなさいな」
虫の居所が悪かったと見える。畳に突き飛ばされた。
顔は似ている。背丈も同じ。でも一葉は豪奢な衣をまとった地主の箱入り娘。乙葉は薄汚い衣をまとった一介の侍女。自分たちはまったく違う存在だ。一葉を自分の片割れと思ったことは一度もない。それは一葉にとっても同じだろう。
一葉は気性が荒い。だから、たとえ彼女の足元にこと切れた下女が転がっていても、不思議ではなかった。念のために乙葉はおそるおそる下女の身体をつついてみたが、まったく力が抜けきって、瞳にも光はなかった。
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