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明くる日、屋敷に墨烏が訪れた。墨染の衣に身を包んだ、刃のような男だった。屋敷の者たちが気味悪がって遠巻きにする中、乙葉は背筋を伸ばして墨烏に対峙する。すっと息を吸い込んだ。
「――下女を殺したのは、あたくし。一葉よ」
身を清め、一葉から譲り受けた蘇芳の煌びやかな衣を身にまとえば、なるほどやはり自分たちは双つ子なのだろう。一葉に比べれば自分は貧相な身体つきだが、それでも、「自分が一葉だ」と言い切れば、そう見える。
「下女一人、殺したのだな」
「そうよ」
墨烏の男は、朗唱するような調子で言う。
「一人殺しは、洞の中」
乙葉の腕に麻縄が巻き付けられた。
遠巻きにしている屋敷の者たちの中、汚れた衣をまとった一葉がほくそ笑むのが見えた。乙葉が逃げ出さず、うまく入れ替わることができたことに満足しているのだろう。
乙葉は逃げなかった。まだ、今のところは。
乙葉は、すっと目を逸らす。
――今日から、私は一葉。
集まった人々の中に、庭師の姿はない。
屋敷の庭には、立浪草の花が咲き誇っていた。穂状の紫の花が、見渡す限り咲いている。庭師の彼が育てたものだ。その美しさに、ふっと笑みがこぼれた。池で鯉がぴちゃんと水音を立てる。
墨烏が訝しげに周囲を見渡した。
「――濃い血の臭いだな」
そうして乙葉は、牢に閉じ込められた。
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