だから私は

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──ふと、揺れ動かされ目を覚ます。疲れて眠ってしまっていたらしい。 「…いやな夢」  寝ぼけ眼で辺りを見回す。  終着駅へ向けて走る、誰もいない車両。辺りはすっかり暗くなり、小雨も降っている。  苦い記憶を思い出したせいか、体が鉛のように重い。外の景色から察するに、降車駅まではまだ時間はある。  残る微睡みが瞼を重く感じさせる。それに従ってもう一度意識を手放そうと席に凭れ掛かる。 「……っ!?」  がたん、と車両が大きく揺れる。  沈み込んでいた肩が、閉じかけの視界と共に思わず跳ね上がってしまう。  駅に着く際の緩やかなそれとは違う、イレギュラーによる急停止。この四角い空間の外で異常な事態が起きている。  靄の掛かった脳が一気に覚醒する。耳を澄ませると、緊急停止によるアナウンスが一切されないことに違和感を覚える。 「なんなの…?」  素人なりに周囲を見回し警戒していると、ふいに窓がカタカタと震えたのに気がつく。 「な──」  直後、硬い天井をぶち破って、何かが目の前に落ちてくる。 「ったぁ…、派手にやるなぁ」 ──自分はまだ夢の中なのか。そんな疑問が浮かんでくる程度に、目の前の事態は荒唐無稽が極まっていた。  フリフリの散りばめられたドレスを纏い、星を吸い込んだような光を放つステッキを持つ、ダークブラウンのショートヘアをした十代前半くらいの女の子。  おおよそ現実に存在しないだろう存在が、目の前に飛び込んできたのだ。
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