だから私は

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 私の存在に気が付いたようで、彼女は振り向くと弾けるような笑顔を見せる。 「あ、すみません。今は危険ですので、ちょっと脇に避難して──」  言い終わるより早く、少女の体が人形のように吹っ飛ぶ。 「──え」  重機のようにデカい何かが、車両の一部を抉り飛ばし、残骸ごと彼女を跳ね飛ばした。  一瞬だけ見えたその姿は、頭が狼で胴体が筋骨隆々の人型をした、見たこともない化け物だった。 「ちょ、大丈夫!?」  考えるよりも早く、乱雑に千切られた車両から外を覗き込む。すると、 「大丈夫、へっちゃらですっ!」  女の子はひょいと顔を出してきて、私のほうが驚かされる。  普通なら即死だろうの衝突に、まるで小石に躓いた程度だと言わんばかりにピースまでしていた。  そんな彼女に向けて、背後から火山弾が迫る。それを一瞥すらせずに、女の子は手にしたステッキで弾いて見せる。 「夜も遅いし、とっとと終わらせるよ!」  そこには深夜の暗闇を切り裂いて、目にも留まらぬ速さで空を舞う、漫画の世界だった。  少女の放つピンク色の残光が、妖しい紫の光とぶつかっては火花を散らし、熾烈なドッグファイトを演じている。 「なに? なんなの!?」  次から次へと襲い来る非日常に成すがままとなり、混乱が頭を支配していく。 『ごめん、大丈夫かな!?』  ふいに、割れた窓からゴムボールのように跳ねる何かが入ってくる。 「…ぬ、ぬいぐるみ?」  現れたのは、仔猫やリスなどの古今東西の小動物の要素をごった煮でデフォルメしたような、手のひらサイズのぬいぐるみだった。  そんなよくわからない珍獣が、私に向けて気さくに話しかけている。 『自己紹介が必要かい? ぼくはマーリン。よろしくね』 「あ、はい。守園麗奈(かみえれな)です…」  優雅な礼をする彼に、つられてぺこりと頭を下げて挨拶を交わす。 …いや、こんなことしてる場合ではなかった。 「アレは、一体何なの?」  自分でもわかりきっている、けれど聞かざるを得ない。 「彼女はシュトラールナデシコ。魔法少女だよ」  珍獣の背後で、雨雲を薄紙のように切り裂く、桃色の閃光が怪物を消し炭にしていた。
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