だから私は

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「ご馳走様でした!!」  出された皿をまるで掃除機に吸い込むように、次々に平らげていく。  私だったら胃もたれしそうだ。若い子のパワーは空恐ろしい。 「…今更だけど。ぬいぐるみが堂々と喋ってて大丈夫なの?」 『そこは心配ない。普通の人には聞こえないし見えないから』  言われてみれば、確かにテーブルの上に立って喋るぬいぐるみに視線を向ける人はいない。 「…引っかかる言い方。まるで私が普通じゃないみたいね」 『そう。きみには特別な素質がある』 ──特別。そんな言葉一つで、私の心臓が大きく跳ねる。 『そう。魔法少女の素質さ。あの怪物以外にはミラー空間に居られるのがその証左だよ』  魔法少女の資質。にわかには信じがたいが、それが嘘幻の類でないことは目の前の撫子が証明していた。 『それに見たところ、麗奈の才能はすごいよ。撫子と同等なのはそうそういない』  私が迷う間に、あれよあれよと持ち上げられる。 『…魔法少女、なってみないかな?』  愛くるしい笑顔から放たれる、あまりにも唐突で甘美な勧誘。私はそれを──、 「私は遠慮するよ」 『そっか。じゃあ早速……ってええ!?』  珍獣のあまりに自然なノリツッコミをスルーして、座席に深く座り直す。 「…自慢じゃないけど。私少女って歳でもないし」 『いやいや。年齢は関係ないよ。80歳でも現役の人もいるし』 「そういう問題じゃない。それに、魔法少女ってさっきみたいなのと戦うんでしょ? そんなの性に合わないし、運動得意じゃないし」 『大丈夫! 撫子も普段はわりと…だから!』 「何今の間!?」  唐突に飛び火されツッコミを入れる撫子。私はそんな様を微笑ましくも、心に一枚の壁を隔てて眺めていた。 「…仮に適性があったとして。周りからおだてられても。無理な事って、あるのよ」  ぼそりと呟いたつもりだったが、聞こえていたらしい撫子の眉がピクリと動く。 「…あの、イヤでなければでいいんですけど。訳を、聞かせてもらえますか?」  向けられる真摯な眼差し。ある意味子供らしい、透き通った綺麗な目だ。 「…貴女にはまだわからないと思うけど。いつ出てくるかわからないバケモノと戦ってられるほど、社会人には時間がないの」  もっともらしい、大人の方便だった。普通なら、これ以上言及するのは憚られる。 「本当に、それだけですか?」 …本当に敏い子だ。自覚があるかわからないけど、私の卑しいところを的確に見据えている。 「…それだけよ」  不思議と、剥きになってまくし立てる気にはなれなかった。  彼女は、私の理想の姿だ。逆立ちしたってなれなかった、夢のような存在。  彼女へ汚い言葉を向けることは、自分の中で何か大切なものを汚してしまう。そんな予感がするのだ。
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