だから私は

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──子供の頃の私がいる。その手には、お世辞にも上手いとは言えない絵を手にしていた。  ぐちゃぐちゃの線で、ほとんど落書き。レイアウトも何もあったものではない。 ──でも、あれは。 「──はじめて褒められたっけ、あれ」  はじめて描いたのは、番組に送る絵葉書のお便り。あの子と一緒に並び立つ私を夢想して描いたっけ。  れなちゃんはお絵かきが上手と、周りから褒められて描き続けるようになった。  自分は特別だ。そんなことを考えた時期もあったけど、続けていくうちに何時しか本当に好きになっていった。  とにかくいっぱい描いた。あの子からは子供っぽいと置いてきてしまったけど、これだけは必死に持ち続けた。  自分だけのキャンパス。特別なもの。  もうあの子描くことはないけれど、自由に描きたいものを描いて、そして──、 「君、才能ないよ」 ──染まっていく。自分だけのキャンパスに、どうにもならない染みが次々に滴っていく。  色々な技法を学んだ。文字通り青春を捧げた。自分にしかできない、特別なナニモノかになれると思ったから。 「……なに、これ」 ──そして、現実を叩きつけられた。  ひと目見てわかった。仮に私が審査員だったとして、どれだけエコヒイキしても同じ結果だったと思う。  死に物狂いで描いた私の絵は入賞が精一杯で、その絵は大賞を獲得した。  原石を擦り切れるほど磨いても、決して敵わない才能の輝き。  特別になるには、アレを越えないとならない。あまりにも分厚い壁を前にして、私は──、 「──私は、なんで描いてるんだっけ」  そう思った瞬間、何かがぷつりと切れた気がした。  全てを投げ売ったとしても、アレには勝てない。ただ傷付くだけだ。それなら、特別な何かなんて──、 ──そうして、私は筆を折った。十年以上かけて築き上げてきたものは、ゴミと消えた。  私はまた、同じ過ちを繰り返した。  傷つくのが怖くて、ちっぽけな自分を守るために、望んでもいない汚い色に染まるのだ。  大切にしてきたものを置き去りにして、今ここにいる私には、何が残っている?  何も残っていない。私は、特別ではない、つまらない人間になった。何者でもない。
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