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それからはもう、あんまり。
今、墓に収められたクソの煮凝り。大体においてコイツが悪い。
心機一転働いて、会社の経営してた頃と比べると随分年収も落ちたけど、まあ技術職だったから、評価も収入もそこそこってとこ。アタシも一緒に頭下げて回った中に、コイツが作った?技術?よく分かんないけどソレの大ファンがいたらしくて。世話して貰って定年繰上げでギリギリまで雇って貰った。
ガキ2人、就職まで済ませても老後の資金は安心。何とかなるかなって、やっと先が見えたって、そんな時。
クソATMが使った後のトイレに血がベタって張り付いてるのを見つけた。
末期の大腸ガンだって。
前から変だったらしいけど、病院がイヤで隠してたみたい。ホント、どこまでクズなんだ。
世話したよ。クソ、クソ。クソオブクソ。ATMとしてもクズかよ。どこまでアタシに迷惑かけんだよ。ムリ、マジでムリ。
だってここで捨てたら、ガキ共に何て思われるか分かんないし。
夫を見捨てるようなクソ女には、孫の顔なんて見せません。
そんなんなったら困るのよ。いくらアタシでも孫は抱っこしたりスリスリしたりしたいのよ。まあ、アイツ等グズだから、まったく女っ気ないけどさ。
だからまた介護よ。えぇっ!?アタシの運、低すぎっ!?的な。
経験者だしって、軽く考えてたけどさ、今度は結構大変だった。方々回って色々試して。何年か頑張ったけど最後は脳までガンが転移しちゃって。メッチャ痛いらしくてすげー暴れる。超暴れる。モルヒネ?フェンタニル?何か強い鎮痛剤打ってやっと会話出来る感じ。つーか薬効いてないと痛すぎて何にも出来ない。寝る事すら、気絶する事すら。夜中突然騒いだりするから、ホント、鬱陶しい。
マジで早く死んでくれよって毎日思ってたけどさ。『全部息子に相続、妻にはビタイチ渡しません』なんて遺書でも残されちゃ堪んないから、歯を食いしばって耐えてた。ホント、何でアタシばっかこんな目にあうのか。
でも、そこまでいくと後は早くて、何ヶ月もしないうちターミナルに入ってくれて、もう少し。やっと荷が下ろせるって辺りで、アンタさ?
「手、握ってさ。出来れば、出来ればだけど、少し泣いてくれると嬉しい。僕、君のお陰で、良い人生だった」
だってよ。
笑いを堪えるのに必死だったよ。
アンタどのツラ下げて亭主関白気取ってんだ?バカ。泣いてやるもんかって、そん時やっと、正直に答えてやった。
「うん、でも、子供の頃から、今でもずっと好きなんだ」
気色悪い事いうな。ストーカー以下の癖して。
「離婚したのに、捨てないでくれて。ちゃんと、僕が壊れないように、舵とってくれて。こんなんなっても………僕、ずっと大好きな君に……大好きな君の顔、みて………死ねる………」
アンタなんか、ずっと、嫌いだったよ。
「ああ………君はやっぱり………かわいいなぁ………」
やめろ。
「……………ありが……と……」
バカ。ガキ共が後ろで見てるんだよ。やらない訳にはいかないでしょって、そんだけなんだよ。そんだけ。
手が、冷たくなっていく。
どうやらATMのコンセントが、抜かれちゃったみたいだった。
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