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くっくと喉を鳴らして水浦さんは笑う。「すげー形相でフロア内歩いてたから。むしろ走ってたからどうしたのかなー、とか思って。片岡さんに鏡二枚借りてたし」
……ああ。
そういうところが、憎めないんだよな。黒沼さんって。
結局わたしは髪を風呂に入る直前まで一切ほどかず過ごした。鏡を見るたびに、まるで、編み込みでもされたみたいな可愛いヘアスタイルにほっこりとした気持ちになった。一見するとドライでクールな貴公子っぽいのに、なんで女の子のヘアアレンジなんかささっとやれるんだろう。おかしいな。――そして。
わたしの見立てが正しければ。『彼』は、……黒沼さんで、間違いないはず。
――どうしよう。どうしよう……。
『熱中症になんぞ』あの口調。涼し気な眼差し……、きっと、間違いない。あの時の彼は、わたしがおばあちゃんと合流したときに、さっさと戻ってしまい、お礼が言えなかった。
『やる。にぎにぎしてると気持ちが落ち着くぞ』
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