#00. 恋は、知らないうちに散らかっている。

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 ウッ、と胸を押さえているうちに、黒沼さんはさっさと行ってしまった……が、わたしのいまするべきことはそれではなく。来客があるかチェックしてお茶出し、お茶出し……。  さっきの黒沼さん。エモかった……。  ちょっと曲がったネクタイを直すときに、彼、じぃ……っとわたしを見つめてくれて。深い、海の底のような澄んだ瞳で。  で。  奥さんになったらこんなふうに――。 『だーから。ネクタイくらい自分で直せるっての。おい』 『ふふふ。そんなこと言って……わたしにされるの、だぁいすきなくせに……♪』 『だーからおまえに合わせて屈むの疲れんだって。はよしてくれ』 『うふふ。だぁいすきよダーリン♪』――永山さん。 「永山さん。……なんか髪型可愛いですね? 今朝と変わってません?」  ……っと。現実に引き戻してくれたのは隣の営業部のエース、水浦(みずうら)さんだ。爽やかで、清涼飲料水のCMに出てきそうな好青年。「あ……、自分でやったわけではないですよ? ちょっと、寝ぐせがひどいのを直して頂いただけで……」 「ふぅん? それって、もしかして、黒沼さん?」 「えっなんで……」
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