#01. 夏休みの思い出【過去編】

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#01. 夏休みの思い出【過去編】

「あら、おばあちゃん、たまご()うてくるん忘れとったわ。待ってて。ささっと行ってくるさけ」  ぶらぶら炎天下を歩く帰り道。わたしと手を繋いでいたおばあちゃんは、しまった、と言って、さっき行ったばかりのスーパーへ戻っていった。  石川県緑川市。ここは、母方のおばあちゃんが住む場所で、おばあちゃんは呉服屋を営んでいる。うちの母は家業を継がずに東京で結婚したためわたしは東京住まいである。  そして小学三年生の夏休みを迎えたわたしは、生まれて初めて、たったひとりで帰省してみた。といっても、羽田空港までは母が見送ってくれたし、のと里山空港に着いたらおばあちゃんが出迎えてくれた。――いらっしゃい。お帰りなさいまし。  実を言うと一人で飛行機に乗るのなんて初めてでどっきどきだった。添乗員さんが声をかけてくれて嬉しかった。そして――緑川に帰れるのも嬉しかった。都会にはないものがここにはある。マックもスタバもない、コンビニには車で行く超のつくド田舎だが(それじゃあショッピングだ)、それでもわたしはここを気に入っていた。
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