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「否定しないってことは、当たりだな。失恋でもしたか?」
うっ……
社長ってば、こういうとこ、変に鋭い。
私は、こくりとうなずいた。
「ふぅ……」
社長はため息をひとつつく。
あ、めんどくさいって思われたかな?
だったら、放っておいてくれればいいのに。
私がうつむいたまま、そんなことを思っていると、エレベーターはポーンと柔らかな音と共に目的地のフロアへ到着した。
けれど、社長は私の手首を掴んだまま、離してくれない。
社長室は、さらに2つ上の階だから、手を離してくれれば、それでこの会話は終わるのに。
「真中、辞めるなよ?」
なんで社長はこんなに私の考えてることが分かるんだろう?
私は、辞めないとは言えなくて、そのまま立ち尽くした。
「1週間でいい。1週間だけ、我慢しろ。あとは、俺がなんとかしてやる」
あれ?
社長、私が隆二と付き合ってたこと、知ってる?
会社では、それなりに隠して来たから、知ってるのは仲のいい同期数人だけなのに。
私がまた無言でこくりとうなずくと、社長は私の手を離した。
私は、そのまま鍵を開けてオフィスに入り、全フロアの照明を点ける。
社長との会話でようやく止まった涙を拭い、化粧を直す。
うん、大丈夫。
私は今日も頑張れる。
私は、自分を鼓舞すると、1人、コーヒーを入れ、仕事を始める。
それから1人2人と出勤し始め、始業5分前に隆二もやってきた。
私は、何事もなかったように、
「おはようございます」
と挨拶をする。
うん、大丈夫。
このまま1日過ごせる。
私はそうしてその日1日を乗り切った。
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