4:幸せの形を探して

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****side■優紀(ゆうき) 「ほれ、乾杯」  優紀はサイダーの入ったグラスを裕也に手渡され、眉を寄せた。 「何に乾杯?」  まだ二十歳にならない自分たちは飲酒はできない。  気分だけのサイダーに肩を竦めると、 「俺たちの未来に」 と裕也。 「お、おう」  軽くグラスを掲げると、サイダーに口をつけた優紀。  裕也は座ればというように椅子を優紀の方に向けた。素直に腰かける優紀。 「こんな結末になるとは思わなかったな」 と裕也。  自分にとってもこれは想定外だ。抜け駆けはしない約束ではあったが、自分に分があるとは思っていなかった。  更にややこしくした裕也。それを正しい道に直そうとした優紀。 「ま、でも。理人らしいと言えば、らしいのか?」 と裕也。  いつになく饒舌に感じるが、それはこうなったのが嬉しいからとも言えるだろう。 「理人、変わらないね」 と優紀。 「そうか? 俺様っぷりに磨きがかかった気がするが」 「それは、否定できない」  理人は、幼い頃はそれなりに考えを口にするタイプだったと思う。正義感が強く、誰よりも男らしかった。  面倒見がよく、無口な裕也のフォローをしたり、いじめられやすい優紀を庇ったりしていたものだ。それが態度だけで相手を黙らせられるようになった頃には、少し雰囲気は変わっていた。  それでも三人の立ち位置は変わらなかったのかもしれない。 「たまんねえな。理人の魔王っぷり」  いつの間にかテーブルの上にナッツを出し、それを頬張る裕也。  将来、良い酒呑みになりそうだなと思いながら、優紀も手を伸ばす。 「裕也はドMだからな」 「俺がいつ、ドMになったんだよ」  ぷッと吹きだす裕也。今日はとても気分が良いのだろう。 「前からドMじゃん。理人に怒られんの好きみたいだし」  何言ってんだ、ホントというように優紀がそういうと裕也は、 「そうか?」 と不思議そうな顔をする。 「そういや、今日」 「ん?」  急に話を変える裕也。そんなことはよくあることだ。 「白石さんと一緒にいたとか」 「あ。ああ」  白石奏斗は大学部ではとても有名な人物である。奏斗自体は既に大学部を卒業しているが、彼の妹が現在三学年に在籍中だ。つまり優紀たちにとっては二つ上。 「理人が良く思ってないのは、噂のせいか?」  白石奏斗の妹が在籍する三学年には裕也の従兄にあたる『鶴城慎(つるぎまこと)』がおり、そんな関係からも裕也は奏斗をよく知っていた。  優紀にとっても奏斗は知らない仲ではない。  優紀には一学年上と奏斗と同級生に従兄がいる。ちょっと複雑な関係ではあるが、一学年上の従兄の恋人の兄が奏斗と仲が良いのだ。  つまり白石奏斗は優紀と裕也にとってはよく知る人物。  だが理人にとっては良く知らない相手なので『悪い噂』の方を信じてしまっていても不思議はなかった。 「誤解、解かないと面倒なことになりそうだな」 と裕也。 「それは俺も同感だけれど。悪い噂って、具体的にどんなのがあるんだ?」  人の噂には尾ひれがつくもの。  奏斗の噂が流れ始めた発端は高等部時代にある。自分に告白をしてきた女子生徒を振ったことで、あることないこと悪意を持ってバラまかれたということらしい。 「俺も断片しか知らないからな。今度情報集めてみるか」 と彼。 「それがいいね」  優紀も特に異論はない。  その噂がどんなものか知るまでは、簡単に誤解が解かれるものと思っていたのだった。
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