5:誤解を解くために

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****side■理人(りひと)  裕也が何か調べている。  それは本人が言わずとも、雰囲気でわかった。  そもそも裕也はそんなに口数の多い方でもない。それに聞いたところで答えはしないだろう。秘密は秘密、漏らすことは無い。それが『鶴城裕也(つるぎひろや)』という男だ。  それならそれで構わない。暴かれたくないものを無理に暴いたところで良い結果にはならないだろう。ならば、時期を待つだけ。  こちらから聞かずとも、その内何か言ってくるに違いない。  理人は腕を組み、腰上ほどの高さのボードに寄りかかりながら窓の外を眺めた。本日、二人がここへ引っ越してくる。軽トラを運転し互いに荷物を運びこむと言ってはいたが、大きな荷物となるとベッドくらいだろう。  案の定、両親に一緒に住むことを話せば二つ返事でOKが貰えた。幼馴染みと言うこともあるだろうが、ルームシェアする相手が男同士というのもあるに違いない。 ──一般的(いっぱんてき)に言う”間違い”は恐らく男女の性交。  もっとわかりやすく言えば『妊娠』のことだろう。  女を連れ込む可能性も否定はできないが、優紀も裕也も浮いた話を聞かない。そのため真面目な人物だと思われていた。特に理人の両親はそう思っているように感じる。  まさか我が子とそのような関係になっているとは想像もしていないだろう。 ──まあ、普通は想像しないよな。  理人は先日の情事のことを思い出す。  自分を見て興奮する裕也に優越感を抱き、自分に良いようにされ善がる優紀に支配欲を満たされた。 「悪くないな」  理人は一人、満足気に笑みを浮かべる。  となると、やはり『白石奏斗(しらいしかなと)』の存在が邪魔に思えた。容姿は整ってはいるが、大学部時代には三股をかけていたという。他人の恋愛観など知ったことではないが、男も女も惹きつけるあたり危険極まりない。  それに彼に関してはロクな噂を聞かない。  その噂が事実であれ虚偽であれ、そんな噂を流されるような人物であることには変わりないだろう。つまり、人様から恨みを買うような人物ということだ。  たまに行きつけの喫茶店で遭遇するが、確かにモテそうなオーラは出ていたように思う。毛嫌いしていた為、良くみてはいないが。確か背が高くて金髪が印象的だった。  理人は顔が思い出せなかった為、仕方なくデスクトップに手を伸ばす。  K学園には通称裏掲示板と呼ばれるサイトがある。とは言っても、高等部、中等部の生徒会、大学部の学生会が運営しているまとも……とは言い難いが、倫理道徳観くらいはちゃんとしたサイトだ。  そのサイトにINするためには学生NOが必要であり、誰かの悪口でも書き込もうものなら一発垢バンになるくらい厳しい管理体制によって秩序が保たれていた。  だがそのサイトをみる限りでは、どう見ても推し活の巣窟としか思えない。  学生会と生徒会の合同で開催されている謎のランキング。  今や美男美女なんて言葉すらセクハラと言われる世の中ではあるが、このサイトでは健在。だから”裏掲示板”なのだろうが。  しかも生徒が乗り気で投票しているのだから、救いようがない。  そしてモテ男ランキングで上位に君臨し続けているのが『白石奏斗』その人である。OBになっても変わらないところを見ると、よほどの有名人なのだろう。  そこに理人は一つの疑問を感じる。  K学園では幼稚園児から在籍している者を俗に内部生と呼び、それ以外から在籍している者を外部生と呼ぶ習わしがあった。それは暗黙の了解とも言える。  白石奏斗は外部生に属するのだ。  外部生の中にも、もちろん有名な人物は存在する。  外部生であるにも関わらず、高等部では生徒会長。大学部では学生会長を務めたことのある『古川悠(こがわゆう)』と同じく高等部で生徒会長を務めたことのある『鶴城慎(つるぎまこと)』だ。  後者の方は裕也の従兄。  彼らが有名なのは役員をしていたという単純な理由ではない。K学園のイジメ問題に向き合い、戦った人物でもあるからだ。
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