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 残り2秒。点差はたったの2点。  朝香(あさか)先輩から3ポイントラインの外側で待つ楓音(かのん)のもとへパスが渡った。慌ててブロックにきた雄山商業の7番をワンドリブルを入れて交わすと、楓音は3ポイントシュートを放った。  先輩の手から離れたボールは美しいアーチを描いて空を舞った。「入って!」と私はスタンドから叫んだ。  ボールは、ゆっくりとゴールへと吸い込まれていくように私には見えていた。しかし――、  ゴン! というボールがリングに当たる鈍い音とともに私の願いは砕け散った。雄山商業の4番がリバウンドを取った瞬間、紅羽高校の全国への夢は終わった。  泣き崩れるメンバーたちの中で、エースでキャプテンだった朝香先輩がみんなに声をかけていた。きっと先輩もつらいはずなのに、こんなときまで気丈に振る舞うことのできるあの人は、私の理想のキャプテンだ。  私はスタンドから拍手を送っていると、こちらへと歩いてくる朝香先輩と目が合った。先輩は微笑み、私に手を振ってくれた。 「あとは頼んだよ」  朝香先輩が私を見上げながら言った。  私は唇を嚙みしめて頷いた。  先輩がもうこれで引退してしまうんだと思うと胸が苦しかった。厳しいこともたくさん言われたけど、優しい言葉もくれた朝香先輩を私は大好きだった。一度でいいから公式戦で朝香先輩と戦ってみたかった。  そんな夢もすべて終わり、これで三年生たちは引退することになってしまった。  そして、この悲しみが胸に残っているまま翌日のミーティングで、ある発表がされた。  その発表は、それまでの日常が激変してしまうような、私の人生であんなに驚いたことはないというほどの発表だった。
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