1

2/2
前へ
/12ページ
次へ
*  翌日は部活がなく、その代わりに視聴覚室でミーティングがあった。  三年の引退とともに、私たち二年と一年での体制に変わる引継ぎ会のようなものだった。私が一年だったときにも同じミーティングが行われて、そのときは朝香先輩がキャプテンに指名された。  朝香先輩は、個人としても県選抜候補選手になるほどスキルが高く、文字通り背中で引っ張っていくカリスマ性があった。本当に本当に厳しい人だったけれど、「この人についていけばいいんだ」って後輩の私たちからの信頼を集めていて、創部史上初の県大会準優勝を成し遂げたのは朝香先輩がキャプテンだったからこそだと私は思う。 「私たちの代はこれで終わるけど、二年、一年たちのことは三年全員が応援します。すぐに何かが実現するとかは難しいと思うけど、みんななら大丈夫だと私は思ってます。新しいバスケ部、期待してます」  凛とした態度で朝香先輩は言った。後輩たちが拍手をする中で、朝香先輩が口を開いた。 「じゃあ、去年と同じで私から次のキャプテンを指名させてもらいます」  普通にいけば二年で唯一スタメンだった奥井楓音(おくいかのん)が選ばれるのだろう。中学時代から有名な子で、朝香先輩にタイプも近いと思う。  もし楓音でないならば、ガードで途中出場が多かった松田恵梨香(まつだえりか)かなと思う。朝香先輩や楓音とは逆にいつもクールなタイプで、判断力にも優れていてゲームメイクもうまい。  順当にいくなら、この二人のどちらかだと思っていた。 「杉浦柚希(すぎうらゆずき)」  それは私の名前だった。  ん? なんだ? 何で私の名前が呼ばれたんだ? あ、私が黒板に何か書くとか手伝うとかってことかな? 私はよくミーティングでメモを取る役目をしていたのでそんなことを考えながら、立った。しかし、 「キャプテンは柚希に任せたからね」 「は?」  朝香先輩が何を言っているのかわからないまま、周りから拍手が巻き起こった。周りを見渡すとみんなが私を見ながら拍手をしている。なに? これは何が起こっているの?  全く予想もしていないことが起きると、人は言葉を発することを忘れてしまうらしい。  何の納得もできないまま、今日から私は、バスケ部キャプテンになってしまった。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加