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 何の前触れもなく、私は部長になってしまった。  「実はどっきりでした!」と誰かが言ってくれるんじゃないかと思っていたが、遂に誰も言ってくれないまま翌日の放課後を迎えた。  部室で着替えをしながら、みんなといつもどおり話し、体育館に行く。ここまではいつもどおりだった。ただ、体育館の扉をくぐった瞬間、「いつもどおり」ではない視線が私に集まったことを感じた。  みんなが私を見る視線が今までとは別の物になっていた。  今までならば、私は体育館に入ったらボールを手にして、ドリブルだのシュートだのの開始前練習をしていれば、朝香先輩が「はじめるよ」と言ったときから部活が始まった。  しかし、もう朝香先輩はいない。  このバスケ部を動かす役目は、私に託されているのだ。 「柚希」  恵梨香が私に声をかけてくれた。私は大きく息を吐き出してから頷いた。 「じゃ……はじめよっか」  みんなが「はい!」と声を出してくれた。  いつもどおり体育館の中を二列になって私たちは走り出した。いつものアップがわりのランニングだ。誰がキャプテンをやったとしてもこのアップは同じだろう。この後に柔軟をして……それから……どうするんだっけ?  もしかして、練習メニューを考えるのって私なのか……?  今まで試合に出ていない私が、練習メニューを考えなきゃいけないのか? 朝香先輩は今までどうやって毎日のメニューを考えていたんだ? そんなこと全然知らない、まずい、これでいいんだっけ?  混乱したまま走ってると、隣の恵梨香が私の顔の前で左手を振った。何かに気づけとでもいうように。 「なに、恵梨香?」 「柚希、何周走る気?」 「え?」  考え事をしたまま走っていた私は今までの体育館内走より何周も多く走り続けていたらしい。止まってから見渡すと、一年の森なんかは肩で息をしていた。 「アップからなかなかハードな感じで行くんだね」  余裕そうな顔をした楓音が笑みを浮かべながら言った。 「いや、つい考え事してたらさー……ごめん」 「いいんじゃん? 柚希のやりたいようにやっていいと思うよ」 「うん……」  この後、柔軟をやったら次のメニューはどうしよう。私は毎日のゴハンのメニューを考える母親のように、頭の中を悩ませていた。
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