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プロローグ 雪白はもう一度死ぬことにした
ある日の、森。
ここは、深い深い森の奥。
見上げると木々の葉の間から光が差し込み
黒く影になったまあるい葉の隙間から差し込む朝日がきらきらと輝いている。
早朝の新鮮な空気が頬を冷たく冷やしていくが、胸いっぱいに吸い込めば
それは気持ちの良い一日の始まりのはずだった。
少し木立が開けた広場に
自然には存在しない人工物が一つ。
木製の、丁寧に作られたことが分かる長方形の箱の上にはまだ真新しいピカピカのガラス板が一枚。
素朴ながら丁寧に処理をされた木版からは、作り手の想いが現れている様だ。
箱の中には、女の子が一人。
雪のような白い肌、薔薇色の頬。陶器で作られたかのようにふっくらと丸みを帯びた額に小さく通った鼻筋、小ぶりの唇。完璧な線を滑らかに描き出した少女の輪郭の真ん中に位置する大きな目は今閉じられて、濡れ羽色の睫毛が長い影を落としている。光に透けるとわずかに青く輝く漆黒の巻き毛が、顔の縁を飾って少女の愛らしさを一層引き立てていた。
どこからか、葉擦れの音に混じって、微かなすすりすすり泣きが聞こえる。
それはよく耳を澄まさなければ聞き落してしまいそうなほど弱弱しく自然で、受け止め切れない悲しみを風に流しているかのようだ。
そう、そんな飴色の木で丁寧に作り上げられた箱の正体は棺だった。
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