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「…グリードは…」
こっちに来ないのか?と問いかけられたグリードは、不思議そうに孔雀色の瞳を丸くする。
同族内での折り合いが悪いため、損得勘定抜きでグリードに優しくする者はいない。
【あ?…俺はいいんだよ、そこまで寒くねえ。いいから放っとけ】
にべもなく拒否されたリエルだったが、背を向けて焚き火からやや離れた暗がりに胡座をかいているグリードを目指して、寝床から這って起き上がる。
「…ふう、やっと追いついた」
暗がりを、砂に足を取られながらヨチヨチと歩み寄るリエルが、ようやく目的の背中に縋りついた。
【馬っ鹿、お前…なんで起きてきた!具合悪いクセに無理すんじゃねえよ】
リエル自身はさほどの力も掛けてはいないが、背中に甘えてきた彼女の挙動にグリードは驚愕していた。
「こっちに来て、グリード。こういうのはね、一緒にいた方がもっと温かいと思うの」
【……知るかよ】
優しさを受け取り慣れていないグリードは、照れ臭くて堪らず顔を逸らす。
素っ気なく突っぱねられたが、リエルはめげずにそっとグリードの手を牽いた。
並んで焚き火の傍らに座ってから暫くの間、二人は無言だったが、距離は格段に縮んでいた。
「探しに来てくれてありがとう。グリードが来てくれた時、すごく嬉しかったんだ」
【…もう居なくなんなよ…】
「うん。行かないよ……グリードのこと、大好きだから」
【はあっ!?いきなり…ば…っ、バカ言ってんじゃねえよ!知り合ってまだ1週間経ったばかりだぞ】
「好きになるのに、時間は関係ないよ…」
ド直球に求愛したリエルは、澄んだ目で真っ直ぐにグリードを見つめる。
つやつやの孔雀色の双眸には、大量の甘い感情が宿っていた。
【ば、ばばばバカヤロー…! こっち見んな!】
純度100%の好意など1度も受け取った事がないグリードは、尻もちを付いて狼狽える。
【お前、倒れた時にアタマでも打ったんじゃねえか…?】
「打ってない!もう、真面目に言ってるのに…茶化さないでよ…」
有り得ないものを見る胡乱な眼差しを向けられ、リエルは小さく憤慨した。
ようやく自覚した恋を、なかった事にされるなんて冗談ではない。
【……正気か?】
しかしグリードの心情もまた複雑で、気に入りのリエルからの告白は嬉しいが大切にできる自信がないがゆえに、尻込みしているのだ。
リエルの好意が嬉しくて舞い上がる一方、自分の気持ちの整理で手一杯なグリードは螻蛄のように砂を掻いて後ずさりながら、本心と真逆な言葉を投げつけてワザとリエルを遠ざける。
しかし、グリードに好意を一蹴されたと看做したリエルは悲しげに柳眉をさげて肩を落とした。
「っ…そうよね。…変なこと言って、ごめんね。……おやすみ」
そして一度もグリードを見ずに背を向けると、そのまま寝床まで早足で戻り、背を向けて横たわると外套を頭から被ってしまった。
【あ…】
(怒らせた?! 嫌われた?! こういう時ゃ、一体どうすりゃいいんだ…っ)
赤く青くなり忙しないグリードを、見える範囲で秘かに窺いながら、リエルは淡い期待を抱く。
迷惑げな態度だけれど、彼は一度も嫌いとは言っていない。
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