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“被害”に遭った夜の住宅街一帯を、冷やかな殺気と悪意が重々しく覆っている。
(奴はどこだ、早く見つけなければ!)
闇と同色の漆黒を纏った追跡者は、短く舌打ちをして手早く拳銃のカートリッジを詰め替えた。
彼の腕時計の時刻は午後6時半。
本来ならば団欒の明かりで満ちるであろう住宅街だが、風が吹く度に生臭い血の香りが漂っている。
もう二度と、ここの誰もに明かりを燈す明日は来ない。
「いたか」
少年が問いかけと共に僅かに顎を上げると、街灯の天辺からふわりと黒服の少女が着地した。
「いや、だがヤツは手負い…そう遠くまでは逃げられないだろう。放っといてもすぐに死ぬよ」
「食人鬼ごときが…梃子摺らせやがって」
「奴ら、擬態してほぼ人間に混ざってるときた。…どうする? それっぽいのを片っ端から殺す訳にもいかないし…」
水銀灯に仄白く照らし出された二人は、性別こそ違えど瓜二つだった。───双子なのである。
「引き続き奴を追う。今日の所は引き上げだ」
「解った」
「必ず、奴ら食人鬼を見つけて…討ち滅ぼす」
「うん。“あたし達みたい”な不幸が二度と起きないように」
血の臭気を帯びた夜風が、ゆるやかに二人を撫でる。
無機質なアスファルトに映る影法師が、一瞬いびつに蠢いたかと思うと唐突に掻き消えた。
風が止んだ時、そこには夕陽がアスファルトを染めているだけだった。
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