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特売だった豚肉を和紙の上に置き、蝋燭に火を灯す。
「あとは……カラスの羽根で図形を描きながら、呪文を唱えるんだな」
僕は今、妖召喚の儀式をしている。亡くなったひいばあちゃんにオカルトの趣味があったらしく、遺品整理の時に大量の怪しげな本が出てきたのだ。そのなかの一冊「初めての妖召喚」を読み、今に至る。
本の内容によると、妖召喚は才能がないとできないらしい。僕はこれといった特技や才能もない。だから、もしこんな僕でも何かの才能があるなら試してみたい。クラスメイトのアイツみたいに、テレビに映る同い年のスターみたいに。僕だってすごい奴になりたいんだ。今日、僕は人生を変える。
「……カラスの羽根、墨汁につけてみたけどめっちゃ描きにくいな」
だけど、こんなところで諦めることはできない。僕は“何者か”になりたいんだ。
「――我と契約せし妖、来たれ！」
呪文を唱え終わると、蝋燭が激しく燃え上がり、豚肉がみるみるうちに形を変えていった。
それはこねられ、大きくなり、やがて後頭部が異常に長い人間のようなものになった。
「成功したのか!?」
成功の喜び、目の前にいる異形の者への恐怖を同時に感じ、僕は震える。
目の前のものは、お辞儀をしながら僕に名刺を渡してきた。
「ご召喚ありがとうございます！ 私、妖怪派遣会社『なんか妖怪？』の関西担当ぬらりひょんと申します」
「……え？ 派遣？ なに？」
急な展開に驚いた僕に、ぬらりひょんは詰め寄ってくる。
「はい。そちらの当社パンフレットをご覧いただきましたよね？」
「え、これパンフレットなの？」
「左様でございます。お客様の地域からの呼び出しでは私、ぬらが担当となります」
「ぬらって上の名前だったんだ……」
ぬらから名刺を受け取ると、そこには“ぬら・りひょん”と書いてあった。
「当社には様々なスタッフがおりますので、きっとご納得いく契約ができると思います」
ぬらは困惑する僕のことなど気にせず、話を続ける。
「どのような妖怪をご希望でしょうか？」
まずい。とりあえず召喚だけしてみたいと思ってただけで、何も考えていない。
「あの、契約するのには何が必要でしょうか？ こういうの初めてで、すいません」
ぬらは営業スマイルを浮かべてタブレット端末を出してきた。そして、画面を僕に見せながら説明をしてくれる。
「いえいえ、大丈夫ですよ。当社がいただく報酬としては、魂そのもの、もしくはその一部、または幸運などでのお支払いも可能です。一部の供物や血液、臓腑でもご対応可能です」
嫌だ。どれも支払いたくない。
「じゃあ、僕が支払えるもので契約可能なのってどんな妖怪がいるんですか？」
「そうですねぇ……少しご査定させていただきますね」
ぬらは僕の全身をくまなく観察する。
「男、16歳、彼女なし……」
ぬらはタブレットを操作しながら、僕の査定をしていく。彼女の有無までみられるなんて最悪だ。
「お待たせいたしました。それではご案内させていただきます」
「……よろしくお願いします」
「お客様の魂で、『砂かけ婆』との契約が可能です」
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