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「そんな挨拶はよいから、こいつを見てくれ。少し前から言葉の表示機能の具合がおかしいのだ」
私は、外側が木の材質で覆われた笏をタイラーに渡した。
タイラーと呼ばれた貴族のように青白くほっそりとした面立ちをしたその青年は、渡された笏の内側にしこまれた機械部分を開けると、
「フンフン、成程。この会話の読み取り機能部分が少々……」
などと言いながら、持っていた電子板に笏を当てた。
板が発光し、暫くブゥーンと音がしていたかと思うと、
「はぁい、太子殿。これでダイジョブです。直りました。故障の原因ですけどね、これ十人分しか一度に機械が読み取れないんですよぉ。太子、十人以上の会話を同時に読み取ったでしょ?」
とこちらをチラリと見やった。
私は使い方について改めて説明を受けると、先日欲張った使い方をしたことをタイラーに詫びた。
修理を終えて礼を述べ、「またメンテに来ますー、太子~」と機械の船に乗り込むタイラーを見送った後、私は会議場へ戻った。
役人たちに再度口々に述べさせると、笏の内側に十人の会話が即刻浮かび上がり、私はいつもの通り全員に完璧な指示、助言を行った。
「今日もさすがでござった、太子殿。豊聡耳の聖徳太子様がおる限りこの国は安泰だ!」
私は聖徳太子。
国の未来のためにも、この『シャクトーク10』という道具、今後も手放せませぬな。
〔FROM EPISODE 99〕
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