第1話 序

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第1話 序

彼方から155(ミリ)牽引砲の咆哮が響く。 「始まったか」 男はそう呟くと、胸当(チェストリグ)から弾倉を取り出した。 連発銃に装填を行い、右側の槓桿(チャージングハンドル)を引く。 敵機甲部隊があと数刻もすればやって来る。 こちらは丘に身を隠しているため、相手の視線が通ることはないとはいえ、これから攻勢をかけるのだ。 心臓の鼓動はやく、地面や装具に触れた部分から己の血潮が脈打つのを感じた。 最も近くの味方までは20(メートル)ほどある。 微かに見える戦友の顔は、かなり強張っているようだ。 すぅ、と長い息を吐いた。 これまで幾多の戦線を渡り歩いてきた猛者であっても、引金に指をかけるまでの時間は普段の何倍にもなるのだった。 長い時間、硬直していた。 周りは森や崖が多く、男達の正面を敵部隊は通るはずなのだ。 ー 今や味方は潰走。 有力な機甲戦力はなく、部隊の主力は歩兵や砲兵。 火力として期待されるのは、もはや重迫や牽引砲を残すのみであり、後方部隊を護衛しながら撤退するのがやっとであった。 本土に上陸され2週間。 ここまで押し込められるとは誰が予想しただろうか。
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