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それからというもの、町内の様子は一変した。
商店街では、ヒーローと怪人が大立ち回りを演じ、宇宙服を着た人物と宇宙人と思しき銀色タイツの人物が並んで歩き、その横を自転車に乗ったカウボーイが通り過ぎていく。公園では原始人たちがキャンプをしていた。かと思えば、噴水の前で唐突にミュージカルが始まったりもする。
大人たちの異変はエスカレートしていくが、不思議と騒ぎや問題になることはない。まるで当然の権利とでも言わんばかりだった。
そんな中、優子たち一家にも更なる変化が訪れる。
「……うそでしょ。そんな、まさか……」
寝そべって漫画ばかり読んでいる正樹を見下ろしながら、優子は愕然とした。
「……本当に生えてる?」
荒涼としていた正樹の頭頂部が茂っていた。
ストレスがなくなった影響か? しかし、それにしても……。
その時、「姉ちゃん、これ見て!」と翔太がスマートフォンを片手に駆け寄ってきた。画面には、翔太が撮影したと思われる写真が映し出されている。犬として生活を始めたお隣の旦那さんの写真だった。
「……え? 何これ?」
地べたに丸まって眠るお隣さんの頭には、立派な犬耳が生えていた。違う角度の写真を見ると、どうやら尻尾も生えている。
「すげえだろ? しかもさ、人間の耳も残ってるんだぜ? 耳が四つあるんだ。どういう構造になってんのかな」
翔太は面白がっていたが、優子はツッコむ気にもならなかった。人智を超えたレベルで、常識が崩壊し始めている。
正樹の様子もやはりおかしかった。頭だけではない。肌つやも良く、明らかに若返っていく。話し方も態度も、まるで子供だった。最初の頃と違って、演技をしている感じでもないのだ。本気で自分を末っ子の次男坊だと思っているかのようだった。
「……どうしよう。本当に父さんが父さんじゃなくなっちゃう。ちゃんと話さなきゃ……」
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