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本当の名前
コルドがファルにそう言った時、コルドの握られていない方の腕がグイ、と引っ張られる感覚がした。
その力はさらに強くなり、コルドの体ごと持っていかれそうになるのをコルドは耐える。
この不可思議な力を使える人間は――、コルドの知る範囲では一人しかいない。
「……マラジュ」
ファルの震え声が耳に入る。
どういうことかとファルに聞くより前に、コルドの体がさらに強く引っ張られ、部屋から引きずり下ろされる。
「……くっ!」
マラジュが、コルドを呼んでいるのだろう。
脳裏に手招きをしているマラジュの姿が浮かんだ。
「…………」
引っ張る力通りにコルドは階段を下る。
そのまま塔から離れ、さらにコルドが歩いたことの無い城内の中を歩く。
見知らぬ道を歩いて幾許かたった時、コルドの前には大きな門だった。
ここは知っている。城内の中心地――、城だ。
いつも、遠くから見ているせいでどれほどの大きさかわからなかったが、ここまでの大きさだとは夢にも思わなかった。
門の両脇には筋骨隆々の兵士がそれぞれ1人づついる。
明らかに城にそぐわない格好をしているコルドを兵士は止めるでもなく、目の前のコルドを睨みながら威圧している。
このまま、追い返されてしまうのでは、と思っていた時、コルドの脳内でマラジュ「入れ」という声が聞こえた気がした。
それと同じタイミングで門が開く。
目の前にいたのは、王付き兵だった。
王つき兵達はコルドの前に跪いている。コルドが自分たちを見たと判断した王つき兵は跪きながらコルドに言った。
「お待ちしておりました。ベルディート様」
「……」
知らぬ名で呼ばれ、いたたまれなさにその場で立ち止まる。
ちょうど、腕の引っ張る力が無くなり、コルドは引っ張られていた方の腕を見た。
「……」
「王がお待ちです。ご案内いたします」
「……」
この王つき兵についていけ、とマラジュは言っているのだろうか。
コルドは足を動かしたのを見た王つき兵は立ち上がり、コルドの周りを囲むように歩く。
そういえば、始めてみるマラジュはこのようになっていたと思い出しコルドの心に陰りがでる。
「……」
「ベルディート様、王にご対面される前に、身支度をしていただきます」
「……私は、コルドと言います」
「それは、貴方様を誘拐した者が名付けた名前でしょう。貴方様の本当の名はベルディート。王が付けた尊い名前です」
「……」
父を侮辱されたという怒りの前に、自分が異世界に飛び込んだことの方が衝撃的で、怒りの感情がわかなかった。
コルドはベルディートと呼ばれたまま、様々準備を行うことになった。
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