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父子
扉の先に居たのはマラジュだった。
黄金の髪、黄金の瞳。
まるで精巧に作られた人形のような人外じみた美しさのあるマラジュ。
そのマラジュにコルドはいつも通り、跪き頭を床にこすりつけた。
「顔を上げよ」
上からマラジュの声がかけられ、コルドは顔を上げた。
コルドの瞳にマラジュのすべてが飛び込んでくる。
今のマラジュはコルドがいつも見ていた赤を基調とした服を纏っていなかった。
生成りの動きやすそうな服を身に着け、豪華な椅子に座っている。
おそらく、これがマラジュの平服なのだろう。
一見城内の支給服にも見えるその服装でもマラジュの神威は揺らぐこともなくその王としての威厳を放っていた。
コルドと大違いである。
「座れ」
マラジュの視線の先にはマラジュ自身が座っているのと同じ豪勢な椅子があった。
そこに、座れと指示されコルドはマラジュの言いつけ通りに立ち上がり、その椅子に座る。
今まで感じたことのない柔らかさの椅子の感触に慣れず、顔が硬直するコルドをマラジュは面白いものをみたというように口角を上げながら見つめた。
「見違えたな。ベルディートー-、いや、今はまだコルドと呼んだほうが良いか?」
「……はい」
小さな机越しの距離のマラジュに暖炉の火の明かりがマラジュの顔を照らす。
それですら、絵になるほどの美しさだ。
たとえ、マラジュが土まみれになったとしても神であるマラジュの神威は変わらないのだろう。
そのマラジュが、自分の本当の親だとは今でも信じられない。
「お前はお前自身についてどれだけ知っている?」
「……自分の生まれを、知ったところです」
「あの小童にか?」
「……はい」
「不思議か? 俺がお前の肉親ということは」
「今でも、信じられません」
「だろうな。だが、お前には王族にしかない力があるだろう? 癒しの力だ」
マラジュの前では見せたことのない力を当てられ、コルドの背中に汗が伝う。
それが顔にでもでたのか、マラジュはコルドをからかうように言った。
「俺がお前のその力に気が付いたのは、俺がお前の肌を焼いた時だ。焼いたはずのお前の顔は、その場でみるみるうちに蘇り、元通りになった。あんな芸当をできる者は今までいなかった。それができるということはお前が俺の血を持つものだという証拠だ」
つい数か月前、コルドが首飾りを無くす直前の話だ。
久しぶりの休みをもらった次の日、コルドは老人の前で顔を掴まれ顔を焼かれた時を思い出し、治ったはずの顔が傷んだ気がした。
「俺の血を持つ者は何かしら俺の力が分け与えられる。今まで7人、そして、6人が死に、俺に力が戻った。だが、俺が初めに失った癒しの力だけは誰も受け継がれず、戻ることもなかった」
そういってマラジュは手をひらりとコルドの目線の先に上げた。
「歓迎するぞ。我が王族にお前が入ることを」
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