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父子2
そう言って差し出されたマラジュの汚れを知らない手をコルドは触るどころか触れることもできなかった。
マラジュはコルドが一向に自身の手を触ることがないとわかると手を戻し、何の気もないように言う。
「そう気負うものではない。王族とは国の中心にあればよい。国というものは一つの円だ。その中心である王は動くことをする必要はない。ただ黙っていればよいのだ。ただ黙っているだけで周りの者が王のため、といって国土を広げ貢物を持ってくる。頭が無くても顔と体だけあれば事足りる」
「……その結果が18年間の内戦ですか?」
「たまにはそういったことも起きる。だが、結局その内戦はお前の弟の力で収まりつつある。また平穏な国になるだろう」
マラジュの他人事のような言い草にコルドの言葉が詰まった。これが王族の考えなのか、マラジュ個人の考えなのかは分からない。
それでも、そう言われてもコルドの気持ちは揺るがなかった。
「……私には、王族は向いておりません」
「……」
「私を見てください。身を清められ、清潔になった私ですが、どうみても王族ではなく、ただの平民です」
「お前は、王族の血を否定するのか?」
「そうとは言っておりません」
「そうとしか聞こえぬな」
「……不愉快ならば、前の時のように私の顔を焼いてください。顔も、癒しません。そうすれば誰も、私も王族と言い出す者はいなくなります」
コルドの本気の言葉をマラジュは冗談だと思ったようで、くすくすと笑い出す。
マラジュにとってコルドは久しぶりに現れた息子であると同時に、反応を楽しむ玩具なのだろうか。
「それは、私の血を分けた子も同じでしょう。私は、父に平民として育てられました。平民の子は平民。例え、血が尊いといったも私の血はすっかり平民になってしまいました」
「そうか。お前は、あいつの腹の子を引き取りたいと言うのだな?」
「……はい」
マラジュは少し考えた素振りをした。
それは国のため、というよりどうすれば自らにとって面白い結果になるのか、という半ば投げやりにも思える考えからの思考のようだ。
「いいだろう。我が血を愚弄し、身も心も平民に染まったお前に俺も興味はない。だが、あいつの腹の子は王族にする。王子の子はどんな力を持つか、興味があるのでな」
「……腹の子は、渡さないというのですか」
「そういうことになる」
「腹の子を私に引き取らせることが、母である彼の願いでもですか?」
「……奴の?」
マラジュの動かしていた手が止まる。
不愉快げに眉を顰められたのをコルドは見逃さなかった。
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