1.居場所

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1.居場所

 初登校が始業式で良かったけれど、6年生だからクラスメイトはすでにみんな仲良しだろう。マンションのエントランスまで見送りにきてくれたお母さんに手を振って、昨夜地図をみながら何度も歩いた通学路をなるべくキョロキョロしないで行く。教科書は学校で受け取るから、ランドセルは軽くてちょっとフワフワした。小さな公園を過ぎて、タバコ屋さんの角を曲がって、後は野っぱらと学生寮に挟まれた小道を真っすぐ、朝七時の空気が澄んで、私の肺が幾らかきっと透けていく。まず職員室に行って、担任の佐々木先生に挨拶をして、一緒に教室へ、私のクラスは3組。だけど、私はお母さんに頼んで早く起きた。まず、転校生として学校をウロついてみるつもりで。 「ヒ ィィィィィィィィィ」  学校の正門がみえてきた頃、何処かの窓から輪っかが飛んでくる音がした。天使の頭に浮かんでいるあの輪っかだ。 「あ」  あの感覚だ。  トランプタワーを崩してしまってから、なんとかしようがあったのにって思う。  階段を転げ落ちながら、まだ間に合うって思う。  もうどうにもなりはしない、砂時計をひっくり返しても、時間は巻き戻せないのに。  気付いた時には輪は私の頭に着地していた。  ダメなのに、キョロキョロと辺りを見回す。時間が早いせいか誰もいない。ススっと輪と頭の間の空間を手刀で切って、私は正門をくぐった。ここがこれからの私の居場所なのだと体折って、挨拶をした。ランドセルは軽くて、頭を余計に押してはくれなかった。
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