2.新しい友達が消す雲

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2.新しい友達が消す雲

 校庭ではソフトボール部が朝練をしている。目を細めてみると奥のバスケットゴールにも数人男の子がいて、学校はもう電池を入れて動き出したオモチャみたいに稼働していた。始業式なのに、みんな元気だ。 「下駄箱に竹下ってシールが貼ってあるからね」  6年3組の下駄箱、上にはランドセルが何個か投げ出されている。教室に行かずにバスケットをしに行ったのかしら。私も、私のゴールを探してみよう。と、ランドセルをよっこいしたら、頭の輪が少し引っかかって言う。 「君のゴールはここにあるじゃない」  いいえ。と、私はすのこを履き替えた上靴の踵で叩いて思う。シュートは外すために打つって。  学校を歩いた。  来賓者入口から入ると立派な水槽に謎の魚が泳いでいた。  保健室の消毒臭さは数十歩前から香り、貼られた虫歯のポスターは写真がリアルで銀歯が痛んだ。  体育館の下窓はこの学校にもあって、前の学校にあった給食室への床矢印は無かった。  ウロウロ、名札に入れた匂い玉を手で何度か確認して、体育館横の階段に座っていた。上から6段目が妙にヒンヤリすることを一段ずつスカートどけて直パンツ座りして知った。 「陽の当たり方、でもないし、なんで温度に差があるんだろう」  ブツブツ呟いたら、返事がある。 「あなた、転校生でしょう」   振り返ると、短い髪の毛を上で一つに纏めた活発そうな女の子が階段を下りてきて、私の隣に座った。 「ここで去年テレビが死んだの」  ん、と私にもやれというように、掌で6段目と7段目を撫でている。私も真似してみせる。新しい学校で初めて会った鏡だと、思った。 「馬鹿な男子に頼むからいけなかったのよ、視聴覚室からテレビ台に乗せたまんまで体育館まで、別々に運ぶって発想がないのが馬鹿の証ね。煙出てた、あはは」  笑って口の中がみえる。歯並びが良くなくて、仲良くなれそうかもと思った。テレビの煙はどうでもいい。だから階段の6段目が冷たいことも、どうでもいい。それより。 「どうして、転校生だってわかるの? 全学年の顔を覚えているの?」  私が訊ねると、驚き顔で言った。 「輪!!」  わ。  しゃっくり、してないよ。  あ、輪。頭の。 「この学校の子なら避けるもん、一年生でも当然」 「避ける……」  私は頭を振った。6段目から大ジャンプして、走ってみる。けど、輪は付いてくる。 「そんなのはね」  誰、走って付いてくるのは。まだ名前も知らないのに。 「捕まる前にやることよ」 「そ、っか」  遅かったんだ。もうトランプタワーは崩れてしまった。砂時計をひっくり返しても、カップ麺はノビていく。早く、食べなきゃ。 「私、6年3組の綾兼っていうの」 「私も3組、神奈川県からきたの、竹下です」 「よろしく」  あやかね、漢字は多分まだ習っていないやつだ。目を細めて名札を探したけど付けてなかった。不良かもしれない、けど、まず友達になったのが不良なら儲けかも。 「まず、ご挨拶に雲、消すね」   私に出来た新しい友達は、校庭側のベランダから空を指差した。  雲は風にちぎられて、散り散りになっていく。 「ね」  うん。  
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