刹那のターニングポイント(Jの物語:番外編その12)-完-

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  「だからさ、絆創膏用意しといてよ、俺専用の」 「ばんそうこう?」 「そ! 『傷心中(しょうしんちゅう)』って書いてあるヤツ! ほっぺに貼るからその時は優しくしてやれって噂流して」 「バカみたい!」  まただ…… 陽子は自分のことを忘れ始める。浜田の心の中を覗いてみたくなる。 「ね、恋愛したことホントに無いの?」 「あ、バカにしてるだろ! 俺だってモテるんだからな、」  指を折りながら数人の女性の名前を言う。全部『ちゃん』づけだ。 「なによそれ! 全部飲み屋のお姉ちゃんの名前でしょ!」  きょとんとした顔をする。 「なんで分かるの?」 「分かるわよ、それくらい」 「うわぁ、今憐みの表情ってヤツになってる! 俺、もう出血多量だわぁ」  刺身をパクつきながら言うその言葉が本気に聞こえないから本気に聞こえて。 「ごめんね」 「なんで?」 「私に気を遣ってくれてる……だから」 「おいおい、カップルっぽくなりたいのは俺だよ。いつもと違うクリスマスってのを味わいたいの!」 「……さっきいっぱい女の人の名前言ったじゃない」 「だってクリスマスはかきいれ時だから客多いし、みんな忙しくて……」  そこで言葉が止まり、浜田の目があちこちに動く。最後に陽子を覗き込んだ。 「バレた?」  途端に可笑しくなる。 「バレバレ、最初っから! そうよね、こんな日に暇なお姉ちゃんいないわよね。いたら『自分の彼氏』と一緒にいるわ、お客さんの浜ちゃんじゃなくて」 「もう! 流血だよ!」  結局笑い声があがってしまう……  
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