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浜田は浜田でちょっと居心地が悪い。さっきはつい声を張り上げた。そして抱き上げた陽子はあまりにもほっそりとしていた。まるで……
『奥さん、栄養状態が良くなかったようですね』
陽子から目を逸らすように、通りに目をやる。
「タクシー、いるといいな」
ハッとした。そうだ、タクシーに乗ったらまっすぐに家に帰ってしまう。自分のことくらい分かる。それでなくても後ろめたいのに。陽子は立ち止まってしまった。
『帰りたくないの』
そんな言葉を言ってみたい…… 一瞬陽子を掴んだ小さな欲望。
「どうした?」
「浜ちゃん……私……」
「まだ残る気だったんだろう? 時間大丈夫ってこと?」
「……今日はヘルパーさんに……泊まってもらうことになってるの。……ちょっと一息つきたくて」
その後に続く無言。浜田もいつもと違う陽子の頼りなさを感じていた。どうしていいのか分からない、とでもいうような。
「タクシー捉まえてくるよ」
外に出て行くその背中を見ながらため息が出た。
(呆れたわよね。そりゃそうよ……実の母親の面倒見るのを嫌がってる娘なんて)
そう間を空けずに浜田は戻ってきた。
「すぐ捉まったよ。行こう」
素直について行く。やっぱり家に帰るのだ、今年のクリスマスも自分には縁がなかった。
外に光るイルミネーションが遠い世界のように見える。じわっとその光がにじんで見える。
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