刹那のターニングポイント(Jの物語:番外編その12)-完-

18/22
前へ
/22ページ
次へ
   ビールが来た。浜田は陽子に半分しか注がない。 「なに? ケチるの?」 「足、痛むだろ? あんまり酒飲まない方がいいんじゃないか?」  さりげない気遣い。 「ありがとう」 「どういたしまして! な、俺って優しいだろ? 明日みんなに言ってくんないかな、『浜ちゃんって意外といい人よ』ってさ」  楽しい。肩を張らない会話。なんでも冗談になる。一夜だけでいい笑い。考え込む前に浜田のからかいや自虐ネタが入る。立ち止まって沈み込む暇がない……  忘れていい、今夜はなにもかも。相手はあの『浜ちゃん』なんだから。重い展開も考えなくていい。 「一番苦手なのは誰? 花?」 「いや、あいつさ、誰にでも容赦ないからそうでもないんだ。自分にだけってのは俺みたいな繊細な男の心にはえらく堪える」  真面目な顔で答える浜田が可笑しい。 「そうなの?」 「そうそう。そこ行くとさ、若い連中って言葉だけは丁寧だろ? みんなみたいにただ笑うんじゃなくて、笑われてる俺を憐れむみたいな目で見てさ。あれは傷つくー」  ふと思う。これは冗談じゃなくて本心じゃないのだろうか……  
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

67人が本棚に入れています
本棚に追加