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ビールが来た。浜田は陽子に半分しか注がない。
「なに? ケチるの?」
「足、痛むだろ? あんまり酒飲まない方がいいんじゃないか?」
さりげない気遣い。
「ありがとう」
「どういたしまして! な、俺って優しいだろ? 明日みんなに言ってくんないかな、『浜ちゃんって意外といい人よ』ってさ」
楽しい。肩を張らない会話。なんでも冗談になる。一夜だけでいい笑い。考え込む前に浜田のからかいや自虐ネタが入る。立ち止まって沈み込む暇がない……
忘れていい、今夜はなにもかも。相手はあの『浜ちゃん』なんだから。重い展開も考えなくていい。
「一番苦手なのは誰? 花?」
「いや、あいつさ、誰にでも容赦ないからそうでもないんだ。自分にだけってのは俺みたいな繊細な男の心にはえらく堪える」
真面目な顔で答える浜田が可笑しい。
「そうなの?」
「そうそう。そこ行くとさ、若い連中って言葉だけは丁寧だろ? みんなみたいにただ笑うんじゃなくて、笑われてる俺を憐れむみたいな目で見てさ。あれは傷つくー」
ふと思う。これは冗談じゃなくて本心じゃないのだろうか……
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