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「この里芋の煮っころがし、美味しい!」
「俺の作った方が絶対美味い!」
「え、料理するの? そうか、してくれる人いないもんね」
「また抉るの? クリスマスなのに俺、ズタズタだー。あのね、独身男を舐めるなよ。ある程度のもんは作れんの。めんどくさいけど。インスタントばっかりって飽きるだろ?」
「お正月は? 年越し蕎麦とか」
「あれって分かんないな、どうして蕎麦食わなきゃなんないのか。そんなの食わなくたって年は普通に明けるって。第一、今日が明日に変わるだけだろ? ま、会社が休みになるのは有難いけどさ、正月番組なんて面白くもなんともないし」
「……なに作るの?」
「休みなのに? まっさかぁ! そうだな……だいたい毎年カップ麺かな、ポットそばに置いときゃいいし。で、だいたい寝てる」
「どこかに出かけたりしないの?」
「いや、勘弁! 寝転がってる方がマシ」
「実家に行くとか」
浜田の目つきがちょっと変わる。箸を置いた。
「なに? 取り調べ? なんかの調査?」
「ちがう、違うわよ、ただの好奇心。男の人のお正月って言うのを知りたいだけ」
箸を取った浜田は今度は唐揚げを口に突っ込んだ。
「あのね、独身男にそーいうの、聞かないで。独り身を実感しちゃうだろ?」
またあの笑顔。話を躱していく姿が……日頃の自分に重なる。
『ええ、帰っちゃうの? 今日飲みに行こうって言ってたじゃない』
『ごめんねー、ヘルパーさん帰っちゃうから』
『たまには息抜きした方がいいわよ、そのままお局様になっちゃうつもり?』
『失礼じゃないの? そういう言い方!』
そう言って笑った…… 自分にはそんな未来が来ると分かっているのに。
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