67人が本棚に入れています
本棚に追加
可愛かった沙都子が生活に疲れ、歪んだ顔で浜田に頼む。
『ひろ、お願い、洗濯』
『レポート明日までって知ってんだろ』
『でも』
『明日はこのシャツでいい』
『でもタオル』
『文句言う暇があったら自分で洗えよ!』
『私、これからバイトなんだよ!?』
(ああ、またやってる……)
夢の中でさえ、そんなことを思う。あそこにいるろくでもない『ひろ』に憐れみさえ感じる。そしてこの後の展開に怯える。
携帯が鳴る……低く、高く。うるさかった。とにかくうるさくてうるさくて……とろとろと手が動く。
『だれ』
『ひろ、……おねが、むかえにきて』
『冗談だろ、俺、ねてる』
『切らないで! きら、ないで、具合わるいの、おねがい』
時計を見る、何も考えずに。いや、違う。自分のことだけ考えて。
『どこ』
『バイト、早退したの、電車、10分で着くから』
『早退?』
その言葉だけが反響した。
『その分俺に働けってか』
『ひろ、おね』
『分かったよ! 行きゃいいんだろっ』
そして携帯を切った。その携帯を握ったまま、また眠りに落ちる……
『おれだってつかれてるんだ』
そう呟いて。
(ばかやろー! 行けよっ、寝るな、寝るな、起きろっ)
何度この夢の中で叫んだか。いい加減に生きている『ひろ』を見続けるのも罰なのだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!