へっぽこ勇者は伝説をつくる

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ぐきゅるるるる~ ひどく大きな音が辺りに響き、耳を突き抜けた。 自分のお腹を擦りながらトボトボと歩く。空はこんなにも青く澄んでいるのに、わたしの心は荒んでいる。ていうか、自分のお腹からこんなに大きな音が出るなんて知らなかった。 「はぁ~」 ため息だけが抜けていく。 むしろため息しか出ない。 まさかこんなに飢える日が来ようとは誰が想像しただろうか。 今日は最悪な一日だった。 わたしはヨロヨロと倒れこむように路地裏へ入った。懐からがま口の財布を取り出し中を確認すると、寂しく銅貨が一枚のみ入っている。 これがわたしの全財産だ。 「お腹すいたよぅ……」 日々安い果物で食いつないできたけれど、それももう限界だ。銅貨一枚でどうしろというのだ。 どうにもならない、どうかしている。 ……決してダジャレではない。 この世界では十二歳になると働くために家を出ることになっている。勇者や魔法使いやテイマーなど、悪いモンスターを倒して賃金を得る職業を目指したり、商人や料理人など町の流通や繁栄に関わる職業を目指したりと、人それぞれ多種多様に渡る。 わたしはというと、勇者になることを選んだ。だから勇者として悪いモンスターを倒し、その報奨金で日々生計を立てているわけだ。 だけど今の私は装備はボロボロ、お金もない。モンスターが巣食う洞窟に入ったものの、ぼろ負けして帰ってきたのだ。こんなわたしを助けてくれる人は誰もいない。 本当は強い勇者に弟子入りして勇者を目指すのが王道の習わしなのだけど、残念ながらわたしにはそんな勇者の知り合いはいないのだ。 「ああ、神様はわたしを見放すのですか!」 まるで悲劇のヒロインを演じるかのごとく、わたしはヨロヨロと壁にもたれかかった。 石の壁は冷たい。ため息深くその場にうずくまるも、石畳も冷たい。世の中冷たいものばかり。 じわりと涙が浮かぶ。 と、鼻をくすぐる美味しそうな香りにわたしは顔を上げた。この路地裏のどこかにレストランでもあるのだろうか。 いいなぁ。食べたいなぁ。お腹すいたなぁ。 きっと銅貨一枚じゃ無理なんだろうなぁ。 どうしようもないもんなぁ。 懐が寂しくさらにじわりと涙が滲む。 この先どうしよう。わたしは飢えて死んでしまうのだろうか。 もう一度モンスターと戦いに行く? そんな体力は残っていないよ……。 「もう……無理……」 ああ、空はこんなに青いのに。 風はこんなに穏やかなのに。 十三歳にして人生を終えるなんて……。 親不孝なわたしを許してね、お父さんお母さん。 わたしはそっと目を閉じる。 「――ちょっと、ねえ、ちょっとアンタ!」 ふと呼びかけられていることに気づきわたしは目を開けた。 「こんなところで何してるの? 大丈夫?」 「え……も、モンスター?」 「はぁ? アンタ喧嘩売ってんの?」 大柄なシルエットがいかにもモンスターのようだったからそう呟いたのだけど、そのモンスターは怒り狂ったようにわたしの首根っこを掴んでズルズルと引きずっていった。 やだ、どうしよう。 ……こ、殺される!
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