帰郷

1/25
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/25ページ

帰郷

 暑さも少し落ち着いた頃、俺は生まれ故郷の陰の国は硯地方、その最西端に位置する銅山の町へと帰ってきた。しばらく帰らないうちにこの町も人が増えてますます活気づいているように感じられた。  大きく町並みが変わったわけではないから迷うことはない。  まずは手紙の差出人である藤丸紫郎に会いに畑病院に向かった。いつも通りなら病院は患者でいっぱいになっていることだろう。  京都のような街並みの中心街の水路には大きなコイが泳いでいる。少し遠くの小高い山には赤い鳥居が並んでいる。あの鳥居をくぐっていくと稲成神社にたどり着く。帰ってきたのだから参っていくのが良いかもしれないが、それはこの町を再び発つときでもいいだろう。  綺麗な街並みを後にして山の方へ入っていくと近代的な大きな建物が姿を現す。この建物こそが畑病院である。  病院には思った通り多くの患者が待合室に座っていた。銅山でケガをした男衆、妊娠しているであろう女性に、病を患っている様子の子供。この通院患者のほかに入院している患者。人数を考えると途方もない。  俺は待合室の看護師を捕まえて、藤丸の居場所を聞いた。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!