少女は金網を登る

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 ある日世界は二つに分断された。  戦争が始まった訳ではない。勢力図が二分された訳ではない。  本当に二つに分断されてしまったのだ。  突如空から降ってきた、一枚の金網によって。 「よっし、やるか」  今、その金網の前に一人の女の子が立っている。年の頃は十代後半。何でもやってみたいお年頃だ。  服装は明らかに登山。そして食料を山程積んだリュックとビバーク用の寝袋をまとめて背負い、今まさに金網に挑もうとしていた。 「本当にやるのね、真知子?」  心配そうに声を掛けるのは真知子の母親だ。その不安を掻き消そうと、真知子はにこりと笑って応えた。 「大丈夫よ、母さん。ちょっと金網を登るだけじゃない」 「そうは言っても心配だわ。金網に登るだなんて、前代未聞だもの」 「誰もやった事がないから、やってみるのだわ。私はそうして何者かになってみたい……行ってくるね」  真知子は意を決し、登り始めた。長い長い道のりになる、この金網クライミングの始まりである。
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