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唐揚げとサラダ
トタン屋根を叩くような音が、部屋いっぱいに響き渡る。
「どうした!?」
ガラリと戸を開けて顔を覗かせる旦那に
「うっかり水飛んだだけ」
飛び跳ねる油から、顔を左手でガードしつつ答える。
そう。なんてことはない。
揚げ物中に、洗い物をしてたら水が入っただけ。
そんなうっかりさんな主婦こと美琴は、主婦歴ウン年。
結婚してそこそこ経つけれど、子供はおらず、のんびりゆったり肥えて...ゴホ...過ごしている。
ちなみに在宅ワーク中の旦那さまとはラブラブだ。一応。...たぶん。
「そろそろお昼にする?」
そう聞くと
「んー。後15分」
「りょーかい」
雨音からようやく小雨程度に落ち着いてきたフライパンに向き直ると、中で泳ぐ肉をひっくり返す。
少し色のついてきた塊りはくるりと回す度に音をたてて食欲を刺激した。
くるり...じゅわじゅり...
くるり...じゅわじゅり...
肉の内側で油が弾けるのが見える。
「そろそろかな」
きつね色になった肉を菜ばしで1つ掴み、油に一部だけ触れるようにして10秒数える。
しゅわしゅわと油が下に流れていく。
何度か振って紙を敷いたお皿にのせた。
「うん。いい感じ」
次のお肉へ菜ばしを伸ばす。
同じことを繰り返して、肉を全て引き上げたら、片栗粉&小麦粉にまぶした2投目のお肉を油の中へ。
「チョレギサラダでいいかな」
冷蔵庫からレタスを取り出すと、シンクの中にボウルを置く。
レタスをくるりとひっくり返して、芯の部分を豪快に叩いて押し込み、芯をぎゅっと捻って引き抜いた。
流れる水の下で、レタスがバリバリと音をたててボウルの中へ落ちていく。
水の中で適当な大きさにちぎり、ざっくりと洗ったらザルへ。
ポリ袋を開き、その中へ中華だし、すりおろしにんにく、塩、ごま油と、手早く入れたら、袋の外からモミモミ。
「海苔...のり...」
レタスと適当に砕いた海苔を袋の中へ入れたら、シャカシャカとシェイクする。
少し大きめのお皿に山盛りにしつつ、唐揚げも忘れずにくるりくるりと回転。
サラダに白ゴマをトッピングし、唐揚げをお皿に盛り付けたら完成!
レモン?家では付けません。そんな物、主婦はわざわざ買わない。...酒のためなら買うけどさ。
「できたよーっ」
ご飯は各自で。
...旦那、来ないんですけど。15分経ったよね。
これ、呼びに行った方が良いの?それとも仕事の区切りがつくまで待ってた方が良いの?
しょうがないからテレビをつけて、ぼーっと眺めて見る。
テレビの中では有名なタレントが、電子レンジで作る唐揚げに挑戦していた。
「一度やったことはあるけれど、やっぱり本物の揚げ物とはちょっと違うんだよね」
ふわりと香る目の前の唐揚げの山。
「お待たせ。美味しそう」
旦那が部屋から出て来たのは、その番組でエンドロールが流れるころ。
「もう冷めちゃったよ。もう一度温め直す?」
「いやいや。そのままでいいよ」
唐揚げの山から一つ取り出した茶色の塊は、一口齧るとにんにくと出汁の味がしっかりと染み込んでいる。
「冷めちゃったからジューシーさが足りない...」
不満げな口調で言えば
「いやいや。美味しいよ」
旦那さまは口いっぱいにサラダを頬張って満足そうに答える。
「二度揚げしてこようかな」
肉にジューシーさが欲しい。肉汁がじゅわっと零れ落ちる感じが欲しい。
「いやいや。十分美味しいよ」
笑顔で言う旦那の手には、レタスが山盛りのお皿。
「今度から先に食べてていい?」
思わずため息がこぼれる。
「まぁ、別にいいけど?どうして?」
心底不思議そうに聞かれましても。
「二度揚げしてくる」
そう。私は最初から二度揚げしない。
だって三度揚げするとジューシーさが減るからね。
サラダを美味しそうに食べる旦那を横目に、もう一度コンロに向かう私。
何年も奥さんしていると、よくある日常なのだ。
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