サンタボム

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【田代】「俺、何で今この仕事やってるんだっけ」  それが最近の口癖の俺は、頭の出来が微妙なヤツだと自負している。  特に、以前考えてたこと、思い出なんかをさっぱり忘れる。今やってることが全てで、それにリソース全部を注ぐ……そういう一点集中型だ。  だから勉強する習慣とかはなかったけど、受験に心切り替えたら割と良い大学行ったし、今は警察官っていう公務員の身にすら置いている。でも、要領は悪い。  しかも今、配属されてるのが公にされてない超絶グレーなポジションなわけで。「綺麗事じゃない」世界で生き残るには、尚更一点集中してしまうわけで。  そういうよく分かんない毎日を過ごしているうちに、俺はすっかり、自分の青春時代のことを、どんな自分だったかも忘れてしまったようだった。 【田代】「……ま、流石にアイツらは覚えてるけどよ」  メールが届いた。何年ぶりか分からないが、プライベートでのメアドは変えてなかったから、久々に通じた。  そして、俺はとある日に休日をしっかり充てなきゃいけないのを思い出したのだった。 【田代】「……マジで何も変わってねえのな」  10年ぶりのその体育館を見上げて。玄関口で靴脱いで、中入って。  それで出てきた言葉がコレだった。いやホント、うろ覚えなんだけど。 【男性】「……あれ!? 田代じゃね!? お前田代じゃねえ!?」 【田代】「え、誰お前? 何で俺のこと知ってんだよ」 【男性】「その漏れ出る口の悪さ、やっぱ田代だよ! うわー、変わってねえ……!! 全然見た目変わってねえwwww」 【女性】「だから言ったじゃん、田代絶対変わってないって。先生、賭けは私の勝ちってことでいいよね」 【先生】「うーん多少は角が取れてるんじゃないかって期待したんだけどなー……残念だなぁ田代(←財布取り出す)」 【田代】「よく分からんけど、現金の非公営賭博は法律でガッツリ禁止されてるんで休みの日にまで俺に仕事させないで」  ただ俺が入っただけで、体育館中に響き渡り始める歓声。  ……これもまたうろ覚えではあるが、そもそも今日この場所に集まる人間がどういうヤツなのかも考えたら、俺はそれなりにコイツらを知ってるわけだ。うろ覚えだけど。  まあ少しずつでも記憶を遡っていこう。まずは受付を済ませて……。  それから、明確な目的。確実に覚えてる連中がいるブロックへと移動する。 【吉川】「おー田代。流石の人気っぷりだな」 【田代】「俺変わってないらしいけど、お前も変わってねえな吉川」 【中嶋】「田代絶対ほとんどの同級生覚えてないでしょ。てか私のこと覚えてる?」 【斑田】「中嶋だろ」 【中嶋】「今は矢島って苗字なんだけどね。覚えててサンキュー、じゃあコッチは?」 【川中】「……!」 【田代】「忘れるわけねーだろッ、今日何のために休み勝ち取ってきたと思ってんだ。結構元気そーだな、川中」 【川中】「!! う、うん。お陰様で……」 【吉川】「これで、いつもの(・・・・)4人の再集合だな!」  いつものって、10年も経ってたらもういつものじゃねえだろ。にしてもテンション高いなコイツ。  まあ、同窓会みたいなのは気持ちが高揚して当然なのかもしれないが。実際俺も、コイツほど露骨じゃないにしても多分、それなりに舞い上がってる。  特段過去に執着する性分じゃないとは思うが、会いたかったんだろうし、戻りたかったんだろう。そんな気持ちを感じる。  ……だったら全部覚えとけって話なんだが。この3人の顔以外やはりうろ覚え。そして―― 【吉川】「田代、受け取りに行ってこいよ。“爆弾”」 【田代】「爆弾処理はもう懲り懲りなんだがなぁ」 【中嶋】「へぇ~そんなこと今やってんだ! 後で聴かせてよ、でもまずは自分の設置した爆弾なんだからちゃんと自分で処理してもらわないとねぇ」 【田代】「てか勝手に爆弾決めつけんな」  ――この俺は一体、10年前に何を埋めたのか?  それも勿論、思い出せないのだった。
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