黒虎 ネラ:

1/1
158人が本棚に入れています
本棚に追加
/49ページ

黒虎 ネラ:

366583ed-e916-4134-a6a2-b0efed985078 「ネラ様、テス様がこちらに向かっているそうです」 「放っておけ、ここに着けもせん女などいらん」 漆黒の常闇(ネラ)、それが俺の名前。 虎の獣人の中でも黒く生まれた。 父上や兄たちは綺麗な白い虎なのに。 そんな俺の事など、どうでもいいというように、か弱いく群れなくては何もできない人間の嫁をもらえと言われた。 それもアリステの姫だと言う。 (かしづ)かれて何もできない人間の女を。 「形だけの同盟だが、無いよりマシだろう」 城の一角に設けられた茶室で、茶を飲みながら父上の言葉。 父上は何を考えている? 人間の国なんぞ、攻め込んで()ってしまえばいいのに。 「お前にもすぐ分かる」 分かる日なんて永遠に来ない。 俺は人間が大嫌いだ。 姑息で意地汚くて浅ましい。 「ネラ様……それでは死ねと言っているようなものです」 「ここへ無事に連れてきた所で、同じだろう」 城の中にも人間を良く思っていない者もいる。 知らぬ間に食われているんじゃないか? だったら今死のうが、城に来て死のうが同じだ。 「それでは王の同盟に障りが出ます」 「はぁ…分かった。俺1人で行く」 「ネラ様…」 「これでも譲歩したぞ?」 呆れる側近を無視して、黒虎に姿を変えて走る。 場所なんて臭いを探ればすぐに分かった。 人間の女2人と馬1頭……2人?なぜ2人?護衛は? 「テス様!!私の後ろに!」 俺が探していた2人に間違いない。 今は数匹の狼に囲まれている。 こんな森に護衛も付けずに……何を考えているんだ。 まあ、いい。手間が省けた。 去りかけたその時だった。 キーンと魔力が動く耳障りな音。 ザシュザシュ!! 氷柱のようなものが空中に無数に現れ、狼どもを串刺しに。 驚いた狼たちは尾っぽを巻いて逃げ出す。 「ユリ、足の怪我を治療しないと」 「テス様!また無茶をして!」 「あのままじゃ、2人とも狼のご馳走になっていたわ」 人間でも数人しかいない魔力持ち。 それも希少な氷の魔力持ちとは。 「あなたも大丈夫?」 女の懐から、子猫が出てきた。 『テスも大丈夫か?』 あの猫……獣人じゃないか。 「大丈夫そうね。もう少ししたら休むからね」 知らないで懐に入れていたのか。 「ごめんね」 そう言って串刺しにした狼たちを埋葬すると、 足に怪我を負った使用人らしき女と子猫を馬に乗せて、歩き出す。 それじゃどっちが姫なのか分からないじゃないか。 どんな奴なのか興味が湧いた。
/49ページ

最初のコメントを投稿しよう!