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黒虎 ネラ:
「ネラ様、テス様がこちらに向かっているそうです」
「放っておけ、ここに着けもせん女などいらん」
漆黒の常闇、それが俺の名前。
虎の獣人の中でも黒く生まれた。
父上や兄たちは綺麗な白い虎なのに。
そんな俺の事など、どうでもいいというように、か弱いく群れなくては何もできない人間の嫁をもらえと言われた。
それもアリステの姫だと言う。
傅かれて何もできない人間の女を。
「形だけの同盟だが、無いよりマシだろう」
城の一角に設けられた茶室で、茶を飲みながら父上の言葉。
父上は何を考えている?
人間の国なんぞ、攻め込んで獲ってしまえばいいのに。
「お前にもすぐ分かる」
分かる日なんて永遠に来ない。
俺は人間が大嫌いだ。
姑息で意地汚くて浅ましい。
「ネラ様……それでは死ねと言っているようなものです」
「ここへ無事に連れてきた所で、同じだろう」
城の中にも人間を良く思っていない者もいる。
知らぬ間に食われているんじゃないか?
だったら今死のうが、城に来て死のうが同じだ。
「それでは王の同盟に障りが出ます」
「はぁ…分かった。俺1人で行く」
「ネラ様…」
「これでも譲歩したぞ?」
呆れる側近を無視して、黒虎に姿を変えて走る。
場所なんて臭いを探ればすぐに分かった。
人間の女2人と馬1頭……2人?なぜ2人?護衛は?
「テス様!!私の後ろに!」
俺が探していた2人に間違いない。
今は数匹の狼に囲まれている。
こんな森に護衛も付けずに……何を考えているんだ。
まあ、いい。手間が省けた。
去りかけたその時だった。
キーンと魔力が動く耳障りな音。
ザシュザシュ!!
氷柱のようなものが空中に無数に現れ、狼どもを串刺しに。
驚いた狼たちは尾っぽを巻いて逃げ出す。
「ユリ、足の怪我を治療しないと」
「テス様!また無茶をして!」
「あのままじゃ、2人とも狼のご馳走になっていたわ」
人間でも数人しかいない魔力持ち。
それも希少な氷の魔力持ちとは。
「あなたも大丈夫?」
女の懐から、子猫が出てきた。
『テスも大丈夫か?』
あの猫……獣人じゃないか。
「大丈夫そうね。もう少ししたら休むからね」
知らないで懐に入れていたのか。
「ごめんね」
そう言って串刺しにした狼たちを埋葬すると、
足に怪我を負った使用人らしき女と子猫を馬に乗せて、歩き出す。
それじゃどっちが姫なのか分からないじゃないか。
どんな奴なのか興味が湧いた。
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