お屋敷の仲間たち

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お屋敷の仲間たち

黒いアイアンの大きな門扉が開き、がらごろと車輪の音を立てて屋敷内へ黒塗りの馬車が入る。 色とりどりの花が綺麗に配置された庭の小路をしばらく走り、白亜の本館前で馬車は停まった。 「ち、ちょっとおトイレ……」 真っ青な顔で、私の手も借りずによろよろと馬車から降りたのは私のご主人様── ケイト・ハヤマ男爵令嬢様だ。 「ケイト様っ!大丈夫ですか!?」 彼女の侍女役を仰せつかった私、メアリー・ローズが後を追うように慌てて降車する。 馬車から降りるのは本来、侍女が先だ。先に降りてから、侍女はご主人様の手を引いて差し上げねばならないのだから。 でも今はそんな事を言ってる場合では無さそうだった。 挨拶もへったくれもなく、元々王子様が別邸として作った瀟洒な邸宅を愛でる余裕もなく、私は馬車に酔ったご主人様を抱えるようにトイレに駆け込んだ。 ──── 「こちらが、ケイト様がこれよりお住まいになられる『柊の館』にございます。」 私が念話(テレパシー)の魔法を使って彼女に館の紹介をした時には、それからたっぷり1時間が経過していた。 ちなみにケイト様には、ここヴィンラント王国の言葉が分からないし、喋れない。というのも、彼女は私の上司── 宮廷魔導師ギルバート・ロチェスター卿によって、異世界から召喚された人だからだ。 ヴィンラント語を解さない彼女のために、念話の術が使える私がケイト様の侍女兼通訳としてお仕えしていた。
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