決戦はロースト肉を食べてから

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──── 夕餉の後、黒いフロックコートを着た人影が音もなく屋敷を抜け出して森への道を急ぐ。 ケイト様の後に夕食を終えた私は彼女と自分に透明(インビジブル)の術をかけ、足音で勘づかれないように適度な距離を置いてその人影を追跡する。 私は人影の30ヤード後方、より安全を図るため、ケイト様は私の更に20ヤード後方から。 ケイト様と私が御屋敷に来た時に通った森の馬車道をさらに左へ分岐した小路をしばらく歩き、人影はようやく足を止めた。 「เหจวเขขจาลมชา่จบอเจ」 その人影は常人には聞き取れないような呪文を唱え、やがて森の一角── 男の立つ少し先にある黒土がもりもりと脈打つようにうねり始める。 やがてその黒土は近くの欅の根元に堆く積み上げられ、穿たれた広くて深い穴からは、男が指揮者のように振るう手に誘われて、ボロボロのロングコートを着た白骨死体がぎこちない動きで姿を現した。 ネクロマンシー……死人を操る悪魔の技だ。 「さて……そろそろ出てきたらどうですか?」 バレてたっ!? 透明呪文をかけてこっそり後をつけていた私は、後ろも振り返らずに声をかけてきたフロックコートの人物──── ダニエル・スティールの前に平静を装って姿を現した。 流石は高位の悪魔というべきか、私の透明呪文はあっさり見破られていたらしい。
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