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ケイト様が呼ばれた本当の理由は、この「聖弓ケイローンの使い手」としてで、これはヴィンラント宮廷の言わば機密事項だ。
前の使い手だった女聖騎士シャーロット様が何者か── 多分悪魔 ── に惨殺されたのがちょうど1年前。
それからすぐ、辺境の村で飼われていたヤギが山羊悪魔に変化して教会を襲ったり、村の男たちが家庭を放り出して美しい淫魔たちとめくるめく一時を過ごす魔女祭に入り浸ったりする事件が相次ぎ、世の中は次第に乱れていった。
「これはマズイ」ということで宮廷と教会、そして各地を治める貴族たちがタッグを組んで「主犯である上位悪魔の捜査」と「聖弓ケイローンの使い手探し」に奔走していた。
占い師の助言に従って、ヘンリー王子は船で南大陸テッサロキアへ向かい、そして私の上司ロチェスター様は異世界へ目を向けてケイト様をスカウトして来たのだ。
ヘンリー王子の別荘であるここ「柊の館」にケイト様を避難させるところまでは上手くいったが、シャーロット様を殺害した上位悪魔はまだ見つからない。
上位悪魔ともなるといとも簡単に人間に変身できる。とはいえ宮廷の人々を片っ端から拷問するわけにもいかず、捜査はかなり難航していた。
王子さまの呪いを解き、聖弓を引いてみせたことで一気に「救国の英雄」となった彼女には、ここクインズベリーにある「柊の館」が与えられたのだ。もちろん、侍女の私付きで。
「ね、ね、ここホントにあたしが住んでいいの?」
「もちろんでございます、ケイト様。」
ようやく馬車酔いの治ったケイト様は、瀟洒な白いお屋敷と緑の芝生を一面に敷き詰めた広い庭園を見てものすごくはしゃいでいた。
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