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「で?コレを作れ。と?」
「は、はい。ケイト様のご要望で……」
噴火寸前の火山のような怒りのオーラを全身から発している料理人トーマスさんに、私は蚊の鳴くような声で答えた。
ケイト様ご要望の「かれーらいす」なるメニューは、食材からして非常識そのものだったのだ。
米、鶏もも肉、玉ねぎ、トマト、ニンニク、小麦粉、ヨーグルト、塩、バター、ピーナツバター、生クリームと、ここまではいい。
お米にバター、生クリームなんかは高級食材だが、そこは曲がりなりにも貴族の屋敷だ。揃わないわけでもない。
が、問題はそこからだった。
「ターメリック、ガラムマサラ、レッドチリペッパー、クミン……あるかぁぁぁぁ!こんなモンっ!!」
「ひいっ、も、申し訳ございませんっ。」
貯めに貯めたトーマスさんの怒りは遂に爆発し、冷や汗をかきながら私は平身低頭で謝った。
ケイト様の挙げた香辛料たちは、命知らずの船乗りたちが海賊や海魔の呪いと戦いながら何ヶ月もかけて南大陸テッサロキアまで遠征し、ようやく手に入れることの出来る「超」がつくほどの貴重品だ。
いくら貴族さまのお屋敷とはいえ、同じ重さの金よりも高価な香辛料がこんな地方の貴族屋敷にあるはずもなく、こんなものをオーダーされたトーマスさんがブチ切れるのも至極ごもっともだ。
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