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ーー勢いがあるうちは暗いとかほぼ見えないとか気にもならなかったんだ……。
洸夜の息の熱さで酒を飲んでもいないのに酔っぱらったみたいになっていたし。
「よく俺が小林の部屋にいるって分かりましたね」
黒い芝生の上に洸夜の身体を慎重に押し倒しながら俺は聞いてみた。
まさか俺が居候していた一ヶ月、ずっとアパート前で張っていたわけじゃないだろ? ってつもりだった。
洸夜の両腕が首に回される。
すり寄せられた頬。唇を探し当ててキスをする。歯をこじ開け自分の舌を奥に差し入れる。洸夜の可愛い舌が俺を迎え入れてくれるその感触が、
(ヤバ……気持ち良すぎ……)
自分から質問しておきながら、洸夜とのキスに頭がバカになっている俺は、彼に息つく暇を与えなかった。
逃げ惑う分厚くて可愛い舌を追い回し、歯並びと口内を這いずり回る。
周りが真っ暗なせいで俺と洸夜の境界が曖昧だ。
大切で仕方ない洸夜のことを、俺が好き勝手に侵食していく錯覚。凄くイケナイことしてる(いや、やってるんだが)みたいで興奮してしまった。股間がどうしようもなく膨れる。
まだ足りないけどちょっと酸素不足になってきたか……と唇を離すと、可哀想な洸夜は息も絶え絶えで俺の隣にクタッと芝生に大の字になった。
そしてポツリと一言、洸夜が言った。
「……だって、追跡アプリ入れてるから」
「は?」
「オレ、いつだって冬木の居場所把握してないと怖くてたまらなくなるんだ。悪いとは思ったけど、隠れてお前のスマホに入れといたから」
絶句している俺の首に洸夜の両腕が巻き付いてくる。
顔を擦り寄せられて気がついた。
洸夜の頬が濡れている。
さっきまで自分を支配していた性的興奮がスッと遠のく。
俺は小さく唸り声をあげた。
「ごめんなさい。俺、一人で勝手に煮詰まって」
「オレのとこに帰ってくるならそれでいいよ。も、早く……」
と、俺の太ももに洸夜の股間が押し当てられた。
その膨らみ。その熱。
はち切れそうなくらい育った欲望が俺が履いてるジーパン越しにも生々しい。
俺のことを欲しがってくれているんだね。堪らなく嬉しいよ。
でも、俺は少しためらった。
「あの、さ……暗いし、ほとんど手探りだから優しくできないかもしれない……」
俺、外見がコワモテらしくて、側から見ると強引なヤツと思われがちだけど、じつは石橋を叩いて叩いて、叩きこわしちゃうくらいの慎重派だ。
一ヶ月前までは洸夜とイイ感じだったから、シコり合ったり、風呂だって一緒に入って、盛り上がる気分のままキスもフェラだってしたけど、実は、なんつーか、挿入する勇気が出なかった。
挿れたいさ。洸夜のナカに入りたい!
その欲は充分あった。
でも……、痛そうだなって。
ためらっていると、とうとう洸夜がワァッと声を上げて泣き始めた。
「なんだよ、もうっ! 期待させて、やっぱり男相手じゃその気にならないってことなんだろ!」
「ち、違いますツ。ホラ、俺だってアンタだ同じだ……」
折角仲直りして盛り上がったのに、俺の慎重さが洸夜を傷つけてしまったんだ。
慌てた俺がギンギンに期待しちゃってる自分の股間を洸夜の太腿に擦り付けると、泣き声が止んだ。
「コレ、お前なの?」
「コレしてるのが俺以外なら、俺はそいつをぶっ飛ばしてるんだけど」
ムッとして俺が言い返すと洸夜は水っぽい笑い声をあげた。
さすがにことここに至って致さないなんて俺の気が狂う。
手探りで洸夜のスラックスごと下着を引き下ろした。
そしてコンビニで買ったローションとコンドームを紙袋から取り出そうとして、
「あ、れ?」
俺の手が止まった。
「どうした、冬木?」
「えっと……ローションとコンドームが入った袋がどこにあるかわからなくて……」
だって本当に暗くて見えない。パタパタと芝生の上を叩いて必死で探してるんだけどさ!
目当ての紙袋がカサリともコソリとも指先にすら当たらない。
「……! なんだよォ! やっぱりヤル気無いんだろッ」
「違います! 俺だってシたいんだ!」
ポカポカと胸の辺りを殴られたが、どうしようもないのは事実だった。
だって……。
〈初めて〉は肝心だろ!?
痛いだけの思い出にするわけにいかない……。
その後、折角降ろした洸夜のスラックスを引き上げ、手を取り合って真っ暗な公園から引き上げた俺たち(ふたりして前屈みでカッコ悪いことこの上なかった)は、洸夜の部屋で改めて、めでたく結ばれたのだった。
〈了〉
2022.04.26
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