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わいの名前は 涼石 夏生。
これは、あの頃(小学2年生)を思い出しての話。
ちょっと? 結構? 昔の話。
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4月に入り、あっという間に春休みが終わって、今日から わいは2年生として学校に通学する。
「行ってくるー」
「忘れもんない? ほらこれ」
母ちゃんが手提げ袋を持ってドタドタ走って来てくれた。
「あっ!」
そうそう、今日はクラス替えの発表のあとに始業式があって配布物をもらうだけやから、ランドセルじゃなくて手提げ袋で行くんやった。へへへ。
わいは玄関の扉を開けて、エレベーター使うのもめんどくさくて、団地の階段を駆け降りる。空が綺麗な青色で、日差しがあったかい。桜の花がだいぶ散っていて、通学路がピンク色になっていた。なんか久々に学校行くのワクワクするなー。
通学路の途中で親友の森野豊、『ゆたやん』と合流する。
「おはよー」
「クラス替えやね」
「そやなー。また、ゆたやんと一緒がええなー」
「はじめてのクラス替えやからドキドキする」
「わいも、わいも」
そんなこと言いながら、二人で競争するように学校に駆けて行った。
うちの小学校は、教室の横、廊下の壁に名前を書いた紙が貼り出される。あー、ドキドキするわ。昨年1年生の時もドキドキやったけど、クラス分けはあらかじめ知らされてたからな、こんな感じのドキドキじゃなかったしな。
わいは、ゆたやんと息を切らしながら、2年生の教室前にやって来た。
ゴクリと唾を飲んで、1組の端から順番に名前を探していく。
「すずいし、すずいし……あった!」
11番目にわいの名前があった。ゆたやんは、森野やからもっと後ろで……
「なっちゃん、ぼく1組やないみたい」
「えっ!」
1組の貼り紙を最後まで見てみたけど森野豊の名前はなかった。2人で急いで2組の貼り紙を見にいく。
「あるわ。2組に僕の名前」
名簿を見ながらゆたやんが力なく答えた。確かに2組の後ろの方に森野豊の名前が書いてあった。
「えーー、うそやん」
え、だって1年間も違うクラスになんねんで。えー、うそやん。うそやん。信じられへんかった。わいのテンションが一気に下がる。ショックでしばらくその場から動けんかった。ゆたやんも同じようにずっと貼り紙を見ていた。
「おはよう!」
後ろから、一緒によく遊ぶ『ミカン』こと宮地優奈が声をかけて来た。相変わらずノッポでデカい。
「私も2組。ゆたやんいっしょやね」
「うん」ゆたやんが小さく頷く。
「なっちゃんは1組やね」
「ミカンも2組? え、わいだけ1組……」
「そう、やね」ちょっと遠慮してミカンが答えた。
「……」
しばらくそのまま何も言わず3人貼り紙を眺めていた。
「ま、今日から私たち2年生。がんばろう。元気だしや」とミカンが背中をバンっと叩いて来る。
わいは今でもこのクラス替えが信じられんかった。だけど、しゃーない、しゃーないもんはしゃーない。どうにもならん。
「ゆたやん、ミカン、わい1組行ってくるわ」
「あ、うん。終わったら、一緒に帰ろう」
ゆたやんが優しく言ってくれる。
わいは覚悟を決めてゆっくり1組の教室入っていった。
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