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その日の晩、わいはじっちゃんと一緒にお風呂に入りながら、健ちゃんの事を話した。
「健ちゃんな、じゃけんじゃけんって言うねん。なんか喋り方がちょっとちゃうねん。だから最初怖かったんや」
じっちゃんが湯船にザブンと浸かる。
「それは広島弁やな。広島から来たんか?」
「うん。ジャイアンみたいにデカいねん。だからジャイアンって呼ぼうか迷ったけど、健ちゃんにしといた」
「それは正解やな。ジャイアンって呼ばれて喜ぶ子はおらんやろ」
「うん」
「夏生。優しくしてやりや」
「うん」
湯船に肩までつかるとため息が出た。
「あー新しい1組、不安やわー、ゆたやんもミカンもおらんし。このまま1年間もかー。はぁー」
なんか世界がちょっと変わってしまった様な気がしたんや、教室なんてそんな雰囲気変わらんのに、先生だって見たことある先生やったのに、ゆたやんも、ミカンも隣のクラスにいるのに、それでもやっぱり違和感があって、なんか居心地がわるかった。世界が変わってもうたんや。
「でも、半分ぐらいは去年とおんなじクラスの子なんやろ」
「え、10人ぐらいやで。3クラスあるからな。しかもその10人、あんま遊んだ事ない奴らやねん」
「ほんでも、しゃべった事あるやろ、それに他の子達もクラスは違っても知ってるやろ」
「うん」
「健ちゃんなんて、だーれも知ってる子おらんねんで」
「……」
そやな、わい、ゆたやんとミカンと違うクラスになっただけで、こんなに落ち込んでいたけど、健ちゃんだーれも知っている友達おらんねんな。場所もよく知らん。言葉もちょっとちゃう。そんなこと考えると、なんか……なんかやな。
「そうか、それは嫌やわ」
「早く、なじむとええな。その子も」
「うん」
わいは、ぽちゃんと湯船に頭まで浸かるとブクブクと息を吐いて、健ちゃんの事を考えた。そっか、誰も知ってる人おらんねんな…… そや、わいが友達第1号になったろ。でも……どうすればええかな? そや! 健ちゃん、顔硬いから、笑かして一緒に笑ったらええんちゃうかな。そしたら怖なくなる気がするし。
ザッバーンと、わいは勢いよく湯船から飛び出した。
「じっちゃん。ギャグを教えてくれ」
「な、なんや! びっくりしたなー」
「健ちゃんを笑かすんや。それで仲良くなる。だからギャグ、笑えるギャグを」
「ギャグ?」
「そや、じっちゃん。渾身のギャグを」
じっちゃんは腕を組んで目を瞑った。
………………
…………
……
わいはその時をじっと待った。
じっちゃんの目がパチっと開かれる。
「ヤーー! めん、どう、めん、どう、ドーベルマン」
ピキッーーン!
ほんわかした風呂場の空気に衝撃が走って凍りつく。
「あかん! 次」
わいは心を鬼にして、じっちゃんに言った。そして、わいも一緒に考えた。
「あかん、次。次。次。次々次々」
「夏生、笑えん! もう一丁」
「じっちゃん、あかん、そんなんじゃ」
「ヤーー」
「キョエーー」
「夏生」「じっちゃん」「夏生」「じっちゃん」「夏生」「じっちゃん」……
じっちゃんとの荒稽古はぶっ倒れるまで続き、こうして茹蛸二人リビングでダウンして寝込むこととなった。薄れゆく意識の中で、わいは悟った。
涼石家ギャグセンスなし!!
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