私がアンタで、わたしはワタシ

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 はあ、とため息をついたあと、彼はリュックを背負って、「帰るわ」と言った。  そのまま部屋を出て行く。  待って、なんて言えない。ガタン、という音と共に部屋は一気に寂しさに包まれた。  頭に血が昇るというよりも、後悔がまず浮かぶ。  最近は些細なことでの喧嘩が多い。  交際して一年半が経過して、私の家に頻繁に泊まりに来るようになった彼。  ほぼ私の家で過ごしていて、もう同棲していると言っても過言ではない。でも彼は絶対に一人暮らしをしている自分の部屋を解約しようとはしなかった。 「たまには一人になりたいときがあるからさ」  湯川大樹(ゆかわたいき)、二十五歳。私よりも一つ上のカフェ店員だ。  同じショッピングモール内で働いていた彼のお店へよく訪れていた私。大樹は長身のイケメンで、たぶんモテていた。爽やかな笑顔で接客された女性は一発で彼の虜になったはずだ。私もそのうちの一人。  同じモール内にあるアパレルショップで働く私は、密かに彼のことが気になっていた。  早番終わりのときは必ずと言っていいほどその店に通い、彼に少しでも近づきたいと思っていた。でも、そんなに簡単に距離を縮めることはできない。私は甘いミルクティーを飲みながら、何度も彼を見ていた。  そんな日々が続いたある日、彼は注文時に話しかけてくれたのだ。 「いつもミルクティー飲んでますよね? ここのやつ美味しいでしょ」 「はい、とても美味しいです。なんか、深みがあるっていうか」 「それはよかった。気に入ってもらえたみたいで」  あまり目を見てくれない話し方ではあったが、それをきっかけにして私たちは仲を深めていき、付き合うことになった。  大樹は決して口には出さないが、彼は以前から私のことを気にかけていたそうだ。  恥ずかしがって口には出さないが、実は私のことをしっかり考えてくれている。    あの頃はよかった。彼の全てが好きで、彼のために生きていたいと思えるほど。毎日のように笑い合って、会話が絶えなかった。  でも、今は違う。  会話は段々減っていって、一緒にいてもスマホを触っている時間が多い。  私が何か話しかけても、大樹は生返事をするだけ。  私といて楽しいのかな、と毎回思ってしまう。
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