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まぶたの裏に
光の尾を引いたミサイルが夜空を横切り、爆発の明かりで地平線がチカチカ瞬いた。
連合国軍のミサイルが今日もどこかの村や町に落ちる。ゲリラがいるかもしれない、という理由で。
いくつもの光の尾をぼんやりと眺めながら、母が話していた流星群はこんな感じなのだろうかと思った。父と母が出会ったのは流星群の観察会だったらしい。今じゃ考えられない、平和だった時代の話。私が母と同じ年齢になったらまた見られるって言ってたっけ。
「バッカじゃない? 見当違いのとこに打ち込んでさ」
「そうだけど、私たちのせいでミサイルに狙われてるって思われてるよ」
「悪いのはあっちでしょ!? あいつらを追い出すためなんだからわかってもらえるって」
そう言って、隣に座る戦友は得意気に笑った。
私たちレジスタンス――自分たちでゲリラなんて言わない――は連合国軍の基地や補給路を狙って攻撃している。
隣国が『奪われた土地を取り戻す、蹂躙された記憶は消えることはない』と拳を振り上げ、連合国が味方についた。そうして、奪われた土地を取り戻したあとも復讐と言う名の侵攻は続いている。
父と母は前の戦争に反対してた。デモにも参加したし、自分たちの国が殺した人たちのニュースを読むたびに辛い顔をして、神様に祈って寄付もした。それなのに。
町に乗り込んできた兵士たちがいなくなった朝、広い道路は死体で埋め尽くされていた。父と母、友達と友達の家族、近所のおじさんとおばさん。隠れていた人たちが家から出てきて泣いた。
『復讐』なら何をしてもいいの? 父と母は戦争に反対だったのに?
大きな街にたどり着いた私はレジスタンスに入った。復讐が許されるなら、復讐の復讐だって許されるべきだって息巻いて、『君たちは今日から戦士だ! 我々の国を取り戻そう!』というリーダーの演説に気勢を上げた。
でも、どれだけ攻撃が上手くいったところで、あっという間に元通りになるどころか前よりも頑丈な防壁を作られる。私たちが鹵獲した補給品よりも多くのモノが新たに補給され、私たちの人数は減っていくのに連合国軍は着々と支配地域を広げた。
『私たちの国』と『隣国』の戦争は、『私たちの国』と『私たちの国以外』との戦争になっていた。隣国は被害者だから悪いのはすべて私たちだと、連合国がニュースを流す。
私や一部の戦友はだいぶ疲弊していた。消えていった戦友たちに、終わりのない戦いに、町なかで私たちの行いが迷惑だと囁かれることに。
「上手くやってる奴なんて一部でしょ。普通の、あんたや私みたいな普通の庶民は好き放題されて迷惑してるんだから。あんなニュース作り物だってわかってるよ。私たちを支持してるって知られたら危ないから、そういうフリしてるだけ」
こんなことを言う戦友の目はギラギラして、狂気を孕んでいるように見えた。飢えを抱え、怯えて隠れる日々で復讐心を燃やし続けるには、狂気に似た何かが必要なのかもしれない。
私みたいに疲れ果てた戦友は目を伏せてため息をつき、翌朝には姿を消していた。
脱走者が出るとこっちの情報がもれる危険があるため、私たちは急いで移動した。追手につかまるんじゃないか。圧倒的な人数で強襲されたらかなわない。恐怖を抱える昼、悪夢で目覚める朝、疲れ果てた夜。
今夜もミサイルの光が夜空を照らす。目を閉じたまぶたの裏に光の軌跡が残った。
いつか降るような流星群を見てみたい。たとえそれがミサイルだったとしても。
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