向日葵の蕾の頃

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「ただいま~」 「おかえり」 部活に向かう椛先輩と別れて、部屋に戻ると、蓮乃はこちらに目も向かずにタブレットで何か描いているみたいだった。 ガンガンと効いたエアコンが部屋に戻るまでに少し火照った頬を冷ます。 でも、効きすぎだから少し温度上げよう。 制服から普段着に着替えながら、蓮乃の作業を覗き見る。 「今は何描いてるの?」 「夏の新刊」 「夏の新刊……?」 何のことだろう。 「漫画とかってこと?」 「そう。あ、ちょっと止まって」 「え、え?」 突然のフリーズ命令に混乱。 部屋着のTシャツを頭から被ろうとした変な所で止まる。 「ちょっとそのままで」 「え~……」 蓮乃が椅子から降りてこちらに歩み寄ってボクの周りをグルグルと回る。 「あの~?」 「写真撮っても良い?」 「それは流石にちょっと……」 自分が外から見たらどんな変な格好をしてるか分かったもんじゃない。 「残念」 いや、こんなところOKって自信持って撮らせてくれる人いないと思うけど。 「じゃあ、もうちょっとだけそのままで」 「え~……」 そのままの姿勢で何分か経って、もういい、と解放された。 「ありがと」 「何だったの?」 やっとTシャツが着れたけど、体は冷えたのでエアコンの温度をさらに上げた。 「絵のポーズの参考」 「あ~、なるほどね」 「実物に勝る参考資料なし」 「先にそう言ってくれれば良いのに」 何事かと思ったよ。 「ちょうど詰まっててコレキタ!って思ったから」 「ボクには何もキテないけどね」 「今日のご飯のオカズ一個上げる」 「しょうがないな~」 「ということで、今度は――」 蓮乃が腕を掴んでポーズを取らせようとしてくる。 「って、続くの!?」 「うん。ご飯まで暇でしょ」 まぁ、暇だけど。 「それでオカズ一個じゃな~」 「じゃあ、2個?」 「逆にそんなに食べられないよ」 部活とかやってたら食べられたかもだけど。 「う~ん、じゃあ、あの生徒会の眼鏡かけた先輩とのこと聞かせてよ」 そう言うと、ピタっと蓮乃の動きは止まった。 「……なんで?」 「あー……なんか午前の補講の時意味深な視線送ってたから」 本当は下駄箱のを盗み聞きしたからなんだけど。 「知り合いなの?」 「うん。じゃあ、描きながら話す。だから、ポーズ取って」 「はーい」 蓮乃にされるがままにポーズを取って、話すのを待つ。 部屋にはタブレットとペンの擦れる音、あと空調の音がしばらく響く。 「いや、喋ってよ。結構ポーズ取ってるだけなのも暇なんだから」 「あ、忘れてた」 「流れでごまかせるかと思ってたんでしょ」 「ち、違うよ……ぷひ~ひゅ~」 口笛吹けてないし。 「じゃあ、モデルやめる」 「うぅ……分かった。話す」 やっと、蓮乃はポツリポツリと話始めた。 半年近く一緒にいるけどあんまり身の上話は聞いたことなかったから楽しみ。
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